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話を聞いていると、話し方、声のトーンなどで、暗闇の中、相手が今どんな状態にいるのか感じる事が出来る。そして、しっかりと会話し運気を見ながら、これからどうしたらいいのか、解決の糸口を探す。それが明生の鑑定のやり方だ。
「僕の鑑定は、本になる様な珍しい……何とか占星術とかそういう物ではありませんので、それに、テレビでやっている様な、霊能力とか……行方不明者を捜したりする能力もないですし、鑑定に来た人の部屋の間取りを当てたりして皆さんを驚かせる様な力もありません。なので、申し訳ないですが……」
そう言って丁重に断った明生だが、エリは間髪入れずエッセイはどうかと勧めてきた。困っていると、晴美がドアをノックして入ってきた。
「丁度よかったです。雨音さん……じゃなくて晴美さんの意見を聞きたいわ」
「何の?」と首を傾げ、晴美はお茶と和菓子をテーブルに運ぶと、パソコンデスクの椅子に腰かけた。
エリは、盲人の明生が今までどうやって生きてきたのか、なぜ占い師になったのかなど、明生の半生を綴った一冊を出したいと熱く語った。
「僕の半生ですか? 目が見えない占い師というだけで、何か異色な物を皆さん感じる様ですが、そんなに面白いエピソードもないですし、普通に生きてきた平凡な男です。父親は食品メーカーのサラリーマンで、母親は専業主婦でした。たまたま目が不自由でしたので盲学校に通い、占いは興味があったので、占い師だった祖母に教えて貰い、点字で占いノートを作成して、ちょっと大変でしたが、それ程の苦労じゃありませんでした。妻と結婚したのは同じ団地に住んでいて、子供の頃から親しかったからで……ほら、ぜんぜん面白くも何ともないでしょ?」
そう言う明生の半生に嘘はなかったが、一部抜けている部分があった。晴美は一瞬、占瞳館の良い宣伝になるのでは……という考えが過った。でも、明生にその気がない事は前から知っている。
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