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「あの……うちの晴美はどうでしょう。僕は、また昔みたいに書いてほしいと思っているんですが……」
突然、明生はエリに晴美がまた小説を書いたら出版を検討してくれるかどうか尋ね出した。
「ちょっと、何言ってんのよ! もう書かないって言ってるでしょ!」
焦った晴美は少し怒り口調になった。
「エリちゃん、ごめんね。忘れてちょうだい」
「なら、ミステリーなんてどうでしょう」
「えっ?」
「うちの出版社は今、ミステリーが書ける人が欲しいんです」
「無理無理」
はっきり言って、晴美は子供の頃から殆どミステリーというジャンルには触れた事がなかった。嫌いとかじゃなく、恋愛小説やファンタジーを好んでいたので、興味がなかったのだ。
「もし書けたら読ませて下さいね」
本気なのかどうなのか微妙な笑顔を残し、エリは席を立った。
たぶん『占いの館』に鑑定に来た時、明生が晴美の夫だと知り、本の出版を思い付いたのだろう。でも断られるのは想定内だったようだ。
「では、また来ます! 絶対にまた!」
と元気に帰って行くエリを見送りながら、きっと様子を伺い、また違ったアプローチを掛けるつもりなんだろうなと、晴美は感じていた。
夕食の時、話題は明生のエッセイの出版についてだった。詩織が面白がって根掘り葉掘り訊いて来た。
「エッセイって、どんなの書くの? お父さんの写真とか掲載されるの?」
「だからね、詩織、お父さんは断ったって言ってるでしょ」
「マジでー。勿体ないってー。前もそんな話しあったよね。何で断っちゃうの? 本が売れたら儲かるのに」
「大丈夫だよ、お母さんがミステリーを書くから」
「えっ? 本当?」
「もう余計な事言わないでよ。書かないって言ってるでしょ」
「何で? 書いたらいいじゃん。面白そう」
「簡単に言わないで」
「でもさぁ……」
「明日の準備は? 時間割とか」
「まだだけど」
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