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「3年生の時の家庭訪問で、忘れ物が多いって言われたでしょ? それに最近、朝起きれないみたいだし」
「最近宿題が多いんだもん」
「ならお風呂に入る前にやっちゃいなさい」
「言われなくてもやろうと思ってた!」
「部屋も散らかってたから掃除したけど、ちゃんと自分でやらなきゃダメでしょ?」
と、まだ食べ終わっていない自分の食器を、晴美は不機嫌そうにさっさと片づけ出した。
詩織は、晴美がなぜ書かなくなったのかを知りたかった。本人に訊いた事があるが、ただ書けなくなったからだとしか答えてくれなかった。
食事を終え、自分の部屋で宿題を始めた詩織は、何か落ち着かない。枕元に綺麗に畳まれたパジャマ、ハンガーに掛けられた明日、詩織が着て行くであろう洋服。晴美が全て完璧に用意してくれている。
あの法事の日、晴美の小説の事を詩織が知ってしまってから、晴美はどこか神経質になった。前からどこか過保護で過干渉で心配症だったが、詩織はそれが鬱陶しいとは思わなかった。でも、あの日以来、どこか微妙に晴美の態度が変わったように感じられた。今は、晴美が満たされない何かを、自分にぶつけているのではないかとすら思ってしまう。
気になって宿題も手に付かず、やっぱりずっと気になっている事を訊こうと詩織はリビングへ行った。
リビングでは、明生がソファーでウトウトしていた。
「お父さん、お母さんは?」
「あっ……お風呂だよ」
「そっか……」と詩織は床にゴロリと横になった。もろに憂鬱な詩織の雰囲気が明生には伝わっていた。
「何か、ちょっと機嫌が悪くなっちゃったな。お父さんが余計な事を出版社の人に言ってしまったから」
「気にしなくていいよ、お母さんが勝手に不機嫌になってるだけなんだから!」
「まぁ、しばらくお母さんの前では、小説の話はしない方がいいのかな……」
「ねぇ、お父さん、お母さんってどうして書くの辞めちゃったの?」
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