恋愛小説家・月丘雨音

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そんな女子大生の日常を描いたのがこの作品である。大ヒットとまではいかなかったが、恋をする女性の心をストレートに表現していると、一部の若い女性から大きな支持を得た。 しかしその後、二本恋愛小説を書いたがぱっとせず、徐々にズルズルと書かなくなった、と言うか書けなくなったのだ。 それからすっかりカッチカチになった頭を抱え、時間が止まった様な日々を過ごしていた頃、本を出版させて貰っていた出版社が経営不振で倒産した。 その頃、もうとっくに女子大生ではなかった晴美は、小さな運送会社でOLとして働き始めた。それから交際していた幼なじみの明生と結婚し、間もなく詩織を授かり今に至る。詩織には小説を書いていた事は話していなかった。というか、意図的に話さなかったのだ。しかし半年程前、とうとうバレてしまった。  昨年の秋、晴美の父親、毅の七回忌があったので、明生と詩織と共に出席した。母親、時子と兄夫婦、了一と奈苗とは久しぶりに会ったので、お互いに近況報告をしていた。  了一は脱サラして、後継ぎがおらず、親戚が辞めようとしていた梨園とブドウ園を引き継いでもう10年程になる。そして毅が亡くなってから、今は時子と同居している。時子は孫の剛と修司と一緒に暮らせる事が嬉しいようだ。 高校2年の剛と中学1年の修司と久々に会い、少し恥ずかしそうに話していた詩織は、そこで意外な事を知る。 「やっぱり詩織ちゃんは文章書くの得意? 小説家の娘だし」 剛がさり気なく言った。 「オレさ、最近知って驚いたよ。叔母さんスゲーじゃん」  修司がちょっとからかう様に笑った。 「しょ、小説家って?」
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