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晴美にとって可愛い大切な娘なのだが、この時ばかりは何故かイライラッとして、眉間に皺を寄せてしまう。悪気はないかもしれないが……いや、最近悪気があるのかもしれないと感じ、益々イライラしてしまう。
「さて、お父さんとこ行こう。もうそろそろ仕事終わる頃だから」
晴美は詩織の持っていた単行本をさっと奪った。そして適当に空いている所に戻した。「そこじゃないよ」と詩織が言うと、「いいのいいの。さっ、行くわよ」と素早く書店を出て行った。詩織は今の様な晴美の態度が、最近とても気になってしまう。それにどうしても気持ちが悪いので、やはりちょっとジャンプをして本を元の位置に戻した。すると、三十代位の女性二人がやって来て、戻した本を手に取った。
「あったあった。これもう一回読みたかったの」
「懐かしいね。私も友達から借りて読んだ事あるわ」
「この主人公ってさ、私の事だ! って思わなかった?」
「そうそう!」
母親と同世代と思われる女性二人が、楽しそうに話している姿を、詩織は不思議そうに見つめた。
ショッピングモール内にある『占いの館』のコーナーには、三人の占い師がいる。仙石龍宝とジュピター麻貴、そして大谷明生である。明生は、晴美の夫であり、詩織の父親である。視覚障害がある明生は、ここで盲人の占い師として十年間働いてきたが、今日でここを辞める事になっていた。
これからは自宅が職場になる。仏間にあった仏壇をリビングに移し、その仏間をDIYが趣味の晴美がリフォームした。そこが占いサロン『占瞳館』となる予定だ。
「やったー! お客さん並んでないからすぐに帰れるじゃん!」
いつもという訳じゃないが、この占いコーナーは結構並んでいるときがある。今日はもうすぐ営業時間終了という事もあり、誰も並んでいなかった。
「お父さーん、来たよー」
「詩織、声大きいわよ」
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