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晴美と詩織の声が聞こえると、いつもサングラスをしている明生の口元が嬉しそうに微笑んだ。
「まだ帰れないんだよ。さっき来たお客さんに、後で寄るから待っていて欲しいって言われてるから」
「マジでー。あれ? お父さんいつものサングラスじゃないじゃん」
「あっ、そういえば……どうしたの? それ」
「ああ、ジュピターさんと仙石さんから頂いたんだ。どうかな、似合うか?」
いつもはウェリントン型のサングラスをしているが、貰ったサングラスはスクエア型だ。明生は少しサングラスを上げながら恥ずかしそうにポーズを取った。
「お父さん、カッコいいよ」
「うん、似合うわよ。早速お礼を……」
と、言いながら晴美はパーテーションで仕切られた隣をそっと覗いた。 お客さんはいないみたいだったので中に入り挨拶をした。
「ジュピターさん、素敵なサングラス、ありがとうございました」
ジュピターは元OLで年は三十ちょっと過ぎ。二十代の頃から文化教室で様々な習い事をしていて、その中で特にハマったのは占星術講座だったようだ。今では若い女性に大人気の占星術師である。
「いいえ。大谷さんには今までお世話になったので……」
席を立ち、いつも鼻から下を覆っているベールを外し、頭を下げた。
「奥さん、久しぶりだな」
と、やはりパーテーションで仕切られた隣から仙石がいつもの渋い着物姿で出てきた。仙石は、この道四十年の易学のベテランだ。
「ああ、仙石さん、お久しぶりです。素敵なサングラスを頂いて……」
「いやいや……」
「今までありがとうございました。あの、これ、詩織と選んだ物なんですが……」
晴美は、用意してきた『気持ち』をそれぞれに渡した。二人は「開けてもいいですか?」と訊くと、目の前で包みを開けた。
ジュピターにはエメラルドグリーンのベールを、仙石には富士山の絵が描かれた扇子を選んだ。
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