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「いやいやこれは素敵な物を頂いた。どうもありがとう」
「大切にします。何で私の好きな色が分かったんですか」
このベールを選んだ時、晴美が淡いピンクがいいと言うと、詩織はエメラルドグリーンがいいと言う。結局じゃんけんで決めた。お世辞なんかではなく、とても喜んでいるジュピターを見て「やっぱりね」と言わんばかりの顔をして詩織は晴美を見た。最近の詩織は度々こんな感じだ。
「あれ、詩織ちゃん、また背が伸びたな」
仙石に頭を撫でられ、ちょっと内弁慶な所がある詩織は恥ずかしそうに笑った。
「将来はモデルかな?」
ずっと黙っていた明生が急に話しに入ってきた。
「やだっ、お父さん!」
「そういうオーラが出てるかも!」
「人相学的にもそういう相が出てるかな」
「もう、ジュピターさんも仙石さんもからかわないでよ!」
そんな他愛もない話をしていると、後で寄ると言っていた明生の客が現れた。その客は三十代半ば位の女性だった。晴美と詩織は仙石とジュピターに挨拶をして、隣のカフェで明生を待つ事にした。
その時、女性客と目が合った晴美は、その顔に覚えがあった。でもすぐには思い出せなかった。
「あの、月丘雨音さんですか?」
相手の女性はすぐに話しかけてきた。
「どうしてお母さんのペンネーム知ってるの?」
詩織は驚いた様な、やはり面白がった様な顔で晴美を見た。
「えっと……ごめんなさい……」
晴美はまだ思い出せなかった。
「高田エリです。永文社で働いておりました」
永文社とは、月丘雨音として本を出していた出版社の名前だった。
「あっ、そうだ。エリちゃんだ……」
名前を言われるとすぐに思いだし、少し引きつった様に晴美は笑った。エリは内ポケットから名刺入れを出し、さっと両手で名刺を差し出した。
「結婚して須藤エリになりました。今はこの……青葉社という出版社で働いてます」
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