恋愛小説家・月丘雨音

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 生き生きとした顔だった。確か、永文社にいた頃はまだ十代の学生アルバイトで、よくトロいとか言われて叱られていたっけ……と晴美はエリの事を思い出していた。童顔の顔は変わっていないが、今はパンツスーツが良く似合うバリバリのキャリアウーマンという感じだった。最近、体形カバーのチュニックばかり着ている自分とは大違いだと、晴美はエコバッグで腰回りを隠した。 「何かエリちゃん、すっかり仕事が出来る女性って感じね」 「見掛けだけですよ。それより雨音さんは変わってませんね。すぐに分かりましたよ」 「そんな事ないわよ。もうすっかりオバさんって感じでしょ?」 「いいえ、全然そんな事ないですよ」  そんなやり取りを退屈そうに詩織は見つめていた。そしてエリはお世辞が上手い人なんだなと思いながら、晴美がちょっと無理をして話しているのを子供心に感じていた。 「晴美さん、知り合いの方?」 それを察したように明生が声をかけた。 「晴美さんって……」  エリが晴美と詩織、明生を順番に見た。 「主人と娘の詩織です」  晴美は明生と詩織をエリに紹介した。 「あっ! そうなんですか」  エリは明生が晴美の夫だと知ると、とても嬉しそうだった。なぜだろう。その謎は少し後に分かった。  大谷家は、花道町一丁目にある築二十五年の中古住宅である。五年程前に越して来た時、バス、トイレ、洗面所などの水回りは業者に頼んだが、内装のリフォームは極力晴美がやった。特に壁紙の張り替えや襖の張り替えなどは大得意である。 明生の占いサロン『占瞳館』は玄関に入り、すぐ右の六畳の部屋にある。 元は和室だったので、床を晴美がフローリングに換えた。壁は珪藻土をスポンジで丁寧に塗り、手作りの棚には、パキラやポトスなどの観葉植物が並んでいた。
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