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だから誰にも言わなかったし、悟られないようにもした。それでもオレは、周りの目を気にしながら少し大きな町に出て同じ嗜好の人と出会い、付き合ったりもした。自分が本当に同性しか好きになれないのかを確かめたかったから。
そして初めて同性と付き合った時、オレはなんの違和感も嫌悪感も感じなかった。むしろ初めて安らげてしまったのだ。それは、自分が本当に同性しか好きになれないことを決定付けた。
自然体でいられる自分。
やっと、ちゃんと息が吸えるようになった気がした。
だけどその彼とも、あいつと出会ってから別れてしまった。なぜ別れたのか。実はそれは今でも分からない。
あんなに彼との時間を求め、大事にしていたのに、一緒にいる時にあいつからメッセージが来ると、途端に彼への甘い気持ちが冷めてしまっていた。そしてそれは相手にも伝わり、オレは別れを告げられた。
その事に対してオレの胸は痛まなかったけれど、本当の自分をさらけ出す場所を失って、また息の詰まる生活が始まった。
多分オレは、そんな生活から逃げたかったんだと思う。
だからオレは地元から目を逸らした。帰りもしなかった。誰とも連絡を取らなかった。・・・それで良かったんだ。
なのに・・・。
集まりになんか行かなければ良かった。
オレを探すそのチャットは、東京に出て来た者での同窓会の案内だった。
オレは上京したことすら誰にも言ってなかったけれど、地元に居ないことを知った友人たちはもしかしたら東京に行ったのでは、と考えた。そして上京組だけの同窓会を開く際、もし知ってるやつがいたら教えて欲しいと、その同窓会の日時と場所をチャットに書き込んだのだ。そしてそれを見た後輩が、オレにそれを知らせてきた。
オレは特にそのチャットに返事をした訳では無い。だけどなんとなくそれが気になって、その日を覚えていた。その書き込みをしたのがオレの親しい友人だったから、もしかしたらあいつも来るのではないかと思ったのだ。
あいつはいま、どうしているんだろう・・・。
その書き込みを見て以来、オレの心の片隅にいたはずのあいつはその存在を大きくし、常にオレを意識させるようになっていた。そしていつの間にか、オレを包んでいた幸せな気持ちがなくなっていることに、オレは気づいていなかった。時計を見る度にときめいていた胸は、いつの間にかあいつのことでいっぱいになっていたというのに、その事にすらオレは気づいていなかった。
そして同窓会当日。
オレは行くか行かないかを迷っていた。迷ってるうちに開始時間は過ぎ、それでもうちへ帰る気にもなれず、オレはほんの少しだけその場を覗こうと思った。
同窓会の場所は有名な居酒屋チェーン店。広いフロアの一角に懐かしい面々が楽しげに酒を飲みながら話している。それを向こうからは見えない位置から見たオレは、そこにあいつがいないことを確認した。
いない・・・。
そう思った時、心が少しキュッとなった。
オレはあいつに会いたかったのだろうか・・・?
今まで一度も会いたいと思ったことは無かった。ただ日常のなにげない片隅に、ふと記憶として現れるだけだった。なのにあのチャットを見てから、オレはいつもあいつを思っていた。
自分の気持ちが分からない。
だけど、いないのなら帰ろう。そう思って身体の向きを変えようとしたそのとき、誰かに腕を掴まれた。あいつだった。恐らくトイレに行っていたのだろう。その帰りにオレはあいつに捕まった。
すでにお酒が入っているだろうあいつの目元は赤く染まり、目が少し潤んでいる。オレが知るよりもさらに背が伸び身体ががっちりしていて、その顔からは少年らしさが抜けて精悍だった。
「おまえ・・・!」
驚いたようにオレ見つめ、掴んだ腕に力を込める。そしてその様子に気づいた他の連中も、オレを見て驚きの声を上げた。
それからオレは強制的に同窓会の席に連れていかれ、質問攻めに合う。オレは平静を装いながらそれを上手くかわしていくけれど、内心はあいつに会って心臓が壊れそうなぐらい早鐘を打っている。
オレの心は一気に高校時代に戻り、あの時の気持ちが蘇ってきた。そしてあの頃には分からなかった自分の心が、6年経った今、分かってしまった。
オレはあいつが好きなんだ。
それに気がついて、オレの鼓動はさらに大きくなる。けれど、そのとき、誰かがオレの腕時計に気がついた。
「お前、すごい時計してるじゃん」
その言葉はオレを現実に戻した。
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