腕時計の誓い

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「お前はオレを好きなんじゃない。それは執着だ。求めても見つからなくて、だけどどうしてももう一度手に入れたいと思う気持ちがきっと、オレへの執着になったんだ。そしてそれを、お前は恋と勘違いした」 オレの言葉に、あいつの顔がみるみる強ばっていく。 「・・・違う。俺はお前が好きなんだ」 それでも好きだと言い張るあいつに、オレはさらに続ける。 「じゃあなんで首なの?こんなに顔が近いのに、なんで口じゃなくて首を舐めるんだよ」 オレの手を押さえるこいつの手が震え出す。 「オレの顔が見れなかったんだろ?男だから。いくら好きだと思っても、男のオレにはキスできなかったんだ。・・・本当は自分の勘違いに気づいてたんだろ?だからあんなに酒を飲んだんだ」 他のやつが言ってた。いつもはこんなに飲まないって。元々そんなに酒に強いわけじゃなく、どちらかと言うとその場を楽しむタイプだって。だけど今日は煽るようにビールを飲み、そして潰れた。それは、ずっと思っていたオレが実際に現れて、自分の気持ちが違うと気づいたからだ。 「長いこと思っていると、それが恋だと感じてしまう。それくらいオレのこと、思ってくれたんだろ?」 オレの心にひっそりとあいつがいたように、あいつの心にもオレがいたんだ。 「ありがとう。そんなに思ってくれて。それから、悪かった。お前の心を縛り付けてしまって。オレが何も言わずに消えたから・・・。それは本当に悪いと思ってる」 その言葉にあいつは目をギュッとつむり、そして手を離してくれた。それでもまだオレの上にあいつは跨ったままで、オレはそのまま上を向いていた。 「オレは・・・お前が好きだったよ」 天井を見たまま、ぽつりと呟いた。 オレも、今日初めて気づいたオレの気持ち。 「オレはあの頃お前が好きだった。だけどお前には常に彼女がいて、そしてそのポジションに決してなれないことを知っていた。だから辛くて・・・だから離れた」 あいつへの恋心に気づくことさえ放棄して、オレはあいつの親友のポジションを選んだ。それでいいと思った。だけどそれはあまりにも辛くて、だからあいつから離れたというのに、その時無視したオレの恋心は成就どころかその存在すら認めて貰えず、ずっとオレの中に燻り続けた。 それがオレの中に生き続けるあいつの正体。気づいてすらして貰えなかったその淡い恋心は、そのままオレの中に留まってしまった。 「ただ好きだったんだ。何をしたかった訳でもない。手を繋ぎたいとか、キスしたいとか・・・そんなこと思ってなかった。ただ、本当に好きなだけだった」 初恋・・・だった。 オレは天井を見ながら、あの頃の自分を思う。 気づいてさえ貰えなかった、淡い初恋。 あいつにと言うより、自分に確認するように言うオレの言葉を静かに聞いて、あいつはオレの上から退いた。 「でもそれは、高校生のオレの話。今のオレは違う」 オレの上からベッドのヘリに移ったあいつを見て、オレはそう続けた。 「実を言うと、今日の同窓会の話を知ってからずっと、お前のことが頭から離れなかったんだよ。お前を思い出して、胸がドキドキして苦しかった。今日だって迷いに迷ってあそこに行ったんだ。お前に捕まらなきゃそのまま帰ってたよ」 そう言いながらオレも身を起こして、乱れた衣服を直していく。 「6年ぶりにお前に会ってますますドキドキした。だけどそのドキドキはいつの間にかに治まっていて、それどころかお前に組み敷かれて首を舐められると嫌で堪らなかった」 最後のくだりであいつがオレを見る。そんなあいつにオレは笑った。 「ごめん。でも本当なんだ。すごく嫌だった」 そんなオレに、あいつは下を向く。そして小さく『ごめん』と呟いた。 「オレもね。自分の気持ちが分からなかった。お前を思って胸がドキドキするオレは、お前のことが好きなんだと思った。だけど、違った。お前があんな強行に出てくれたおかげで、オレは気付けたんだ。お前を好きだったのは今のオレじゃない。高校生のオレだって」 気付いてしまえば、あとは簡単だった。オレが好きなのが誰なのか・・・。 「お前もそうだろ?オレに会って分かったはずだ。自分の本当の気持ちが」 そう言ってオレはベッドから降りると、カバンを拾う。そして・・・。 「帰るよ」 まだ混乱していて何も言えないあいつにそう言ってオレは玄関に向かった。
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