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「あ、しまった! 斉木さんの今、住んでるところ、訊くの忘れた~」
トイレから戻ってきて、私は肝心なことを思い出した。
「斉木さん、まだ喫煙室にいるかな?」
今住んでいるところを聞き出さない限り、何も業務が進まない。年末調整も、社会保険の変更手続きも。
「大丈夫。さっき、イントラから申請するように言っておいたから」
私が抜けているのに対し、こういうときの愛さんは本当に頼りになる。いつもフォローされっぱなしだ。
「さすが、愛さん!」
「噂をすれば、ホラ」
イントラで申請した内容がメールに通知されてきた。
申請者は斉木直人さん。
住所は……。
「うっ……。よりによって会社の近く……」
会社の最寄駅から二つ先の駅だった。
過払いしている非課税交通費の差額の計算の他、この金額なら社会保険料の変動もあるかもしれず、随時改定する必要があるかどうかも確認しなければならない。
「年末調整のおかげで引っ越しが発覚して良かったような、繁忙期に仕事が増えて悪かったような……」
これからやらなければならない業務の多さに思わずうなだれる。
「でも……」
愛さんが笑顔で言った。
「斉木さん、幸せそうでよかったね」
「ん……」
他人の幸せにほんの少し関われるこの仕事を嫌いじゃない、と思った。
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