変身猫とショートケーキの彼

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 思わず金網のフェンスを両手で掴み、私は猫の姿を探した。しかし雑草の揺れはどこにも見つからない。時おり聞いた鳴き声すらも聞こえない。  急にどこかから人間の男性が現れ、猫は忽然と姿を消した。これが何を意味するのか、私の頭に変身猫という単語が思い浮かんだ。  *  ほんの数時間前のことだった。朝の登校中に白い飼い猫を見かけた。ブルーの細い首輪を付けていて、左の前足には白い包帯を巻いていた。  この子、どこの子だろう?  見かけない猫に近寄り、「迷子なの?」と話しかけるが、猫は細い声でニャーと鳴くだけだ。 「あん子先輩、遅刻しますよ?」  ふいに(かたわ)らより声をかけられた。  声の主は後輩の真柴(ましば)くんで、彼は信号機に指を向けていた。チカチカと点滅を始めるのを見てギョッとし、慌てて横断歩道を渡りきった。  車道越しに後ろを振り返るが、猫は既に立ち去ったあとだった。声をかけた手前、あの猫がちゃんと帰れたのかどうか気になっていた。 「まさか変身猫だったとは」  家路を辿りながら地面に伸びた薄暗い影を見つめて、独りごちた。
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