佐倉星音の場合

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佐倉星音の場合

 お母さん、今、どこに居ますか?  私は酔うと、いっつもこの事を考えて、星に問いかける。  ベランダで秋風を感じながら缶チューハイを飲む。これがハタチになって三ヶ月で覚えた毎晩の癒しだ。  酔うと思い出すのは、3歳で別れたお母さんのこと。  その人の顔を、私はあんまり覚えていない。お父さんはアルバムを何処かにしまったから、写真も見たことがない。  ベランダで一番星を見ながらまた一口、クピリとお酒を飲む。  火照った顔に冷たい空気の対比が気持ちいい。  私は小さく口笛を吹いた。  この部屋は角部屋で、お隣さんは空室だから、少しの口笛くらい、いいだろう。  私には、家族がいない。だから、夜に口笛、夜に爪切りだってできる。  蛇も死に目に会えないことも怖くない。  お酒が進むたびに記憶にないお母さんの事を考える。その度に、お酒って凄いなと思う。いつも蓋をしている出来事を簡単に露呈してしまうのだから。  でも、悪いお酒は飲みたくない。  お母さんの事を考え出したら深い酔いの証拠、と私は割り切り室内に入る。  そろそろマニキュアを落として爪を切ろうか。
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