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堕ちる
ドラマや小説だと、大体監禁された被害者の視点で物語は進む。
犯人の視界ってこんな感じか、と思いながら廊下を戻り、両開きの扉を開ける。アンティークの家具の数々が統一された上品な雰囲気を醸し出している。仮面の僕はひどく場違いだ。
ソファに腰掛け、女のことを思った。
彼女は今何を見ているだろう。
半地下の部屋には天井近くに横長の窓がある。防音のため分厚いガラスで、手が届く距離ではない上、人が通れる大きさでもない。だから脱出される恐れはないが、汚れた窓でもわずかに光を感じるはずだ。
完全に暗くしなかったのは、彼女に今いる状況を目に焼き付けておいてもらいたかったからだ。
彼女は辺りを観察するだろう。
僕は目を閉じて、その景色を想像する。
仮面の男が去り、最期の時がいつか分からない中、部屋の中を見回す。コンクリートの床、壁、天井、そして階段。
室内は寒かった。普段なら羽織るものをとって、部屋を暖房で暖かくして――しかしそんなことはできない。いつまで経っても。暖かい部屋に戻ることはない。
納骨堂にも似たあの地下室で、女の顔はどんな風に歪んでいるだろうか。
しばらく妄想に耽った後、僕は立ち上がり、彼女のために準備を始めた。
時計を見上げると、思ったより時間が過ぎていた。
机の上のピルケースを取り、地下室へと向かう。
時計のない地下室で、彼女が絶望の時間をより長く体感していてくれればいいなと、思った。
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