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「ありがとうございましたー」
俺、小鳥遊雄大はどこにでもいる一人暮らしをしているごくごく普通の大学生だ。
「小鳥遊君」
「店長」
「はい、今月の給料」
「あ、ありがとうございます!」
店長から手渡された封筒には、現金ではなく『給料明細』の紙が入っている。
「小鳥遊君はいつも頑張ってくれているし、ヘルプにも度々入ってもらって悪いね」
「いえいえ! 給料がもらえるのなら!」
「ははは、もちろん働いてもらったその分ちゃんと支払うよ」
基本的に学校に行っていない時間をほとんどアルバイトに費やしている。そのためサークルなどには入っていない。だからこそ、店長は心配してくれているのだろう。
――俺としてはサークルをやる事よりもアルバイトが最優先なんだよなぁ。
「ははは」
「それにしても、それだけバイトを入れていたらずいぶん貯まるんじゃないかい?」
「あー……ははは。残念ながらあまり」
普通に考えたらこんな風に思われるかも知れないが、残念ながら全然貯まっていない。
「生活、そんなに大変なのかい?」
「え!? いえいえ! そんな大変な話じゃないですよ? 親から毎月ちゃんと仕送りももらっていますし!」
「そうなのかい?」
学費や住んでいるアパート代は両親が『仕送り』をおくってくれているので、それで支払ってくれている。
だから、稼いだアルバイト代は基本的に食費か雑費に使っている……のだが、正直言って日々の食費はカツカツだ。
「はい! ご心配をおかけしてしまってすみません」
「いや、それならいいんだけどね? 無理はしない様に」
「はい!」
心配してくれる店長に、俺は元気よく答える。
しかし、仕送りをしてもらっているにも関わらず、どうしてそこまでカツカツの生活をしているのか……その答えはとてもシンプルだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――はぁ、今日も推しが尊い」
そう、稼いだアルバイト代を『推し』つまり、自分の好きなキャラクターのグッズに費やしていたのだ。
たまに「生活費を切り詰めてまで……」と我に返る事があるのだが、グッズなどを実際に手にすると、それすらも些細に思えてしまう。
「これ。結構いい値段したけど、お値段以上の価値ありだな」
俺は毎日こうして手にした『推し』のグッズを見るだけで日々の疲れを癒されているから、食費がカツカツになろうが結果的に問題なし。
「はぁ、かっこいい……」
そんな生活費を費やしてまで俺が『推し』ているのは、白っぽい髪に同じく白っぽい色をした狐の耳と尻尾を持っている『[[rb:妖狐 > ようこ]]』の男性キャラクターだ。
「男が男性キャラを?」
そう思う人もいるだろう。しかし、そんな事は俺からしてみれば些細な話。とにもかくにも、尊いモノは尊く、かっこいいモノはかっこいいのである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お!?」
その日、俺はアルバイトの休憩中にいつもの様に『推し』のグッズなどの情報収集のためにネットサーフィンをしていた。
「こっ、これは!」
なんでも俺の『推し』である『妖狐』のモチーフとなった伝承が伝わる「神社」があるそうなのだ。
「ここは……うん、比較的近いな」
――日帰りで行こうと思えば行けなくもない距離だな。よし。
コレを知った俺は「是非とも行きたい!」と思い、夏休みに向けいつもは情報を見つけるとすぐに飛びついていたグッズ収集を少しだけ我慢し、貯めたアルバイト代で『日帰りの一人旅』を計画する事にした。
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