籠の中の鳥

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「……誰だ、あんた」 「それは我が聞きたい事なのだが?」 「いやいや、ここは俺の部屋なんだが?」 「む? ここの国王にここで準備をしろと言われたのだが?」  そう言ってその人物は隣にいた従者らしき人に問いかける。 「はい、確かに」 「……」  こう言われてしまうと、俺も返答に困る。  しかし、俺はついさっき兄にこの部屋に行く事は伝えた。すでに誰かがいるのなら、その時に言ってくれても良いはずだ。 「……どうやら何か行き違いがあった様だな。とりあえず、突っ立っていないで入ればよいだろう」 「そうだな……っと」 「む? おっと」  部屋に入ろうとした瞬間。絨毯に足を取られてしまい、その人物に抱き留められた。 「大丈夫か」 「わっ、悪い!」  俺はすぐにその人物から離れたが、当の本人は「そうか」特に気にしていない様だ。  ――不可抗力とは言えいきなり抱きつかれて、あまりにもリアクションが薄くないか? それにこいつ、ひょっとして……。  そう思ったが、わざわざ言う必要のない話だ……と思う事にした。 「……」  しかし、置かれている家具などは俺がこの部屋を出た後と何も変わりない。だからこそ、俺の知っている貴族の服装とは全然違う服を着ているこの人物の異質感が半端ない。  ――だからといって庶民の服装とも違う。 「なんだ、気になるのか」 「は?」 「先程から貴様の視線が我の『着物』に向けられているからな」 「……」  ――着物……そう言えば聞いた事があるな。確か、着物を着る文化あるのは『天空の国』だったか。  確か、その『天空の国』では『和』という独自の文化が発展しており、この『着物』という服もその一つ……と聞いた事はあった。  そして、目の前の人物が持っている『扇』も先程いた貴族の女性の持っていたモノとは装飾の細かさで言えば全く別物にすら見える。  ――とは言え、確か『天空の国』というだけあって、その国は孤立していたはずだ。  しかも、辺りは海に囲まれており、その国に行くには船で行くしか方法がないのだが、タイミングが合わないと船が流されてしまう……と聞いた事があった。  だが『天空の国』なんて呼ばれているが、実際は海に浮かぶ孤島だ。  この国の周りに年中霧がたちこめていて、それが空に浮かんでいる様に見えるため『天空の国』と呼ばれる様になった由縁らしい。  ――そんな国の人間がなぜこんなところに? 「ふむ。我がここにいるのがそんな不思議か」 「……正直な」 「ほぉ、なかなか素直だな」 「嘘をつくのは苦手なので」 「なるほど。我も嘘は嫌いだ。それがたとえ世辞であったとしてもな」 「そうかい」  最初から俺はこの人物に対し『敬語』を使っていないのだが、この人物はそれに気がついているのか……はたまた気がついていないのか……ワザと流しているのか分からないが、そう言った事は特に気にしない人間の様だ。  ――まぁ、通常なら「無礼者!」って言われるところなんだけどな。それに、向こうも使っていないからおあいこって事で。  そう思う事にした。 「さて、我がここにいる理由だったな」 「ああ」 「我はこの国の国王に呼ばれて来たのだ」 「そうだったのか……なぜ?」 「簡単な話よ。舞を披露して欲しいとの事だ。我が国とこの国の友好を表すために」 「あー、なるほど」  ――そういう事か。  そもそも俺が今日わざわざ兄に呼ばれた理由。それは「珍しいモノが見られるから」というモノだった。  ――あんまりにもしつこいから来たけど、確かに『天空の国』の舞は……見てみたい。 「ん? ちょっと待て、確か……」 「ああ、貴様が考えている事は分かる。我らの国はどの国とも和平など結んではおらぬからな」 「だよな。じゃあなぜだ?」 「これから結ぶため、誠意を見せる……という意味合いも兼ねている」  確か『天空の国』はその立地の観点もあり、どうにも閉鎖的だ。だからこそ、今までどの国とも関わりを持たなかった。 「このままではいかんと危惧したのが我が国の現女王陛下よ。今のままでは衰退こそすれ、発展は望めぬと」 「なるほどなぁ」  確かに、今のままではずっと変わらない事は出来ても、発展はなかなか難しいだろう。 「ところで一つ聞きたかったんだが」 「なんだ」 「あんた、男だよな。確か俺の記憶では『天空の国』に男はほとんどいないはずだが?」  俺は最初から思っていた疑問を目の前の人物に投げかけた――。
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