籠の中の鳥

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 ――ユリウスはずっと考えていた。  小さい頃から『貴族』という存在は、お茶会や舞踏会を頻繁に催す。そして……。 「見て、第二王子のユリウス様よ」 「え、嘘。舞踏会に来られた事ありまして?」 「いいえ? 私は初めて見ましたわ」  とにもかくにも『話』が好きだ。 「まぁ、来られなかったのは辺境だからよ」 「あら、追放されたんじゃなくて?」 「コラコラ、それはあくまで『噂』だろ? めったな事を言うんじゃない」  特に貴族の女性は『噂話』がお好きらしく、料理よりも先に『おしゃべり』を優先する。  この国。チェーリス王国の第二王子であるユリウス・ローリアは、本当に何年ぶりかに王宮を訪れていた。 「はぁ」  ちなみに自分の保身と、見当違いな噂話を流されている兄さんに代わって弁明すると、俺は辺境に住まいを構えてはいる。  それは間違いないのだが、第一王子である兄さんは「場所はいくらでもあるから」と言ってくれていたのだ。  しかし、俺はこうした『貴族』との関わりを嫌ったという事と他に色々な要因が重なったために今の様な状況になった。  ――本当に、こういうヤツらの会話を聞くのも話しかけられのも面倒だな。  そう思った俺は、そういえば会場に到着してから挨拶すらしていない事に気が付き、兄さんたちがいる壇上へと向かった――。 「お、来てくれたか」 「……」  笑顔で迎える兄に対し、俺は無言のお辞儀で返す。  それに対し、周囲からは「愛想がない」やら「実の兄とは言え、国王に対し無礼だ」などという声が聞こえる。  ――これで本人たちは聞こえていないと思っているんだもなぁ。  なんとも幸せな脳みそ……いや、耳をお持ちだろうか。一度俺の立ち位置に立つと良い。ものすごく聞こえているぞ。  ――まぁ、ワザと聞こえるように言っているんだろうけどな。 「まぁ、長旅で疲れているだろうから。今日はゆっくりしてくれ」 「……はい。それでは、自室で休ませていただきます」  俺がそう言うと、周囲のザワつきはさらにひどくなった。 「ああ、そうするといい」  しかし、兄さんは俺の言葉にそう返し、笑顔だった目はザワついている周囲へと向けられる。  ――牽制って奴だろうな。要するに「俺がそうすればいいって言っているのだから、周りがわめくな」といったところか。  だがまぁ、コレで自室に行っていいという許可は出た。 「ありがとうございます」  俺はもう一度一礼し、会場から出て自室へと向かった――。    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆  俺は生まれてから王立の学園を出るまでの間、この王宮で日々を過ごして来た。  そして、兄さんが結婚したとほぼ同時期に今の辺境の地へと移り住んでいる。  ――何が嬉しくて新婚の兄夫婦と同じ家で過ごさないといけないんだ。  これこそが、今の辺境の地へ俺が行った本当の理由である。  ――まぁ、貴族同士の関わりも面倒だって言うのも間違いじゃないけどな。  それに第一王子の兄さんとは違い、俺は役職に就いている貴族たちからどうにも嫌われているらしい。  ――俺が何をしたってワケでもない……いや、あるな。  思い当たるとしたら、俺と兄で派閥争いが起きそうになった時に「いや、俺。そもそも国王の職を継ぐ気ないし」と言った事ぐらいだろうか。  ――いや、それとも以前の宰相の不正を暴いた事か?  そう言えば、あの宰相は外面だけは良かった。  外面だけ良くて、部下の手柄を自分のモノにし、領民から多額の税を徴収しているにも関わらずそれを報告しない極悪人だったのだが、それに言い出したらキリがないほど証拠はあった。  ――そもそも、文句があるくらいならちゃんと身の潔白を証明すればいいだろうに。  しかし、その宰相は身の潔白として色々とそれはそれは長々と話をしていた。しかし、どれも決定的なモノではなく、俺が出した証拠たった一つであっさりと不正を認めた。  ――他にも色々あったが、結果的に見せしめみたいになっちまったし、俺が今住んでいるせいもあって「宰相の領地を奪った」みたいに言われるきっかけになっちまったなぁ……。  その領民からは「あなたが領主になって良かった」と口々に言われているので、宰相は本当にとんでもない事をしていたのだと改めて気付かされた。 「ふぅ」  さて、そんな面倒な貴族たちからも離れてようやくゆっくり出来る……と思い、俺は慣れたように部屋のドアを開けると――。 「……」 「……」  なぜかそこには珍しい民族衣装を身にまとった全く見覚えのない人物がソファに座って優雅にお茶をしていた――。
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