超能力捜査

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超能力捜査

「わたしの子どもはいまどこにいますか」  焦燥した顔で女性がたずねる。雑居ビルの一室。室内は暗く、ホタルのような明かりがぽつぽつと置かれていた。お香を焚いているのか、神社のような寺のようなにおいがする。 「子どもをお探しですか」  相手が聞きかえす。超能力が使えるとうわさの占い師らしい。くわしい話は知らない。なんでもいいから手がかりがほしかった。  女性の子どもが行方不明になったのは数か月前のこと。家族で山へ遊びに行き、そこで行方がわからなくなった。すぐに見つかるだろうと、あたりを探したが、すがたは見当たらない。警察に連絡して捜索してもらったが、子どもにつながるようなものはなにひとつ見つからなかった。  行方不明からしばらくのあいだは理性的な判断を下していた女性も、時間の経過とともに冷静さを失っていった。家の雰囲気は悪くなり、夫とは喧嘩が絶えない。ついには、自分ひとりで子どもを探してみせると家を出た。ビラを配ったり、探偵に依頼したり、自ら山に入って歩きまわったりしたが、成果は上がらなかった。こうして、挙句のはてにたどり着いたのが、超能力で探してもらおうという発想だ。正常な判断ではない。だが、本人はいたってまじめだった。ほかにどんな手段がとれるというのだ。 「ええ、わたしのかわいい子どもなのです。いまどこにいますか。はやく教えてください」 「まあ、そう焦らずに。もうすこし情報をください。そうしないと探せるものも探せませんよ」 「それは、すいませんでした」  前のめりになっていた身体をもとへ戻す。女性は子どもの情報をこと細かに伝えた。本名、住所、生年月日、行方不明になった日時、そのとき着ていた服装、将来の夢、生まれるまでの思い出などなど。一番時間をかけて話したのは、いかに自分が子どもを愛していたかの話と、思いどおりに動いてくれなかった夫への恨みだった。 「なるほど。事情はよくわかりました」 「先生、わたしの子どもはどこにいるのでしょうか」  同じ質問をくり返していることに女性は気づかない。精神は疲弊している。占い師は女性とは対照的に落ちつきはらって対応した。こういう客が来ることになれているのかもしれない。部屋の明かりが揺れる。 「調べてみましょう」 「どうやって調べるのです」 「透視を使います。いま現在お子さんがいる場所をのぞいてみるのです」 「そんなことができるのですね。ぜひ、お願いします」  拝むように女性が占い師を見つめる。透視をうたがうような理性は残っていない。どんな形でも子どものぶじをたしかめたい覚悟だ。  そんな女性の気迫が伝わっているのかいないのか、占い師は普段と同じように透視の作業に取りかかる。目を閉じて精神を集中させる。数分もしないうちに額へ汗がにじんだ。 「あの、なにかわかりましたか」 「ええ、だんだん見えてきました」 「本当ですか。それで、わたしの子どもはどこにいるのです」  ふたたび女性が身を乗りだす。 「山の広がる景色が見えます」 「それはわたしの子どもがいなくなった山でしょうか。まだ、あの山にあの子はいるのですか」 「ちょっと待ってください。川が流れています。小さな滝もあるようですね」  占い師の言葉に女性は息をのんだ。まさしく、子どもがいなくなった場所にも川が流れて、そばに滝があったからだ。 「そこです。わたしの子どもがいなくなったのは。その山のどこにいるのです。わたしがいくら探しても見つからなくて。くわしい場所を教えてください。いますぐ迎えに行きます」 「まあまあ、待ってください。透視で見えるのはおぼろげな場所までです。細かい地点までは特定できません」 「そんな、なんとかならないのですか。このままわたしの子どもが見つからないのはあまりにも残酷すぎます。この世には神も仏もないのですか」  女性は真剣だ。目が血走っている。 「安心してください」占い師は平然とした口調で言った。「いまからあなたのお子さんと会話をしましょう。もちろん、普通に会話をすることはできません。心に直接問いかけるのです」 「そんなことができるのですか」 「ええ、わたしには常人ならざる力があります。いまそれを証明してみせましょう」  占い師は再度目をつむった。だれかに話しかけるようにくちびるが動く。耳を澄まして集中すると、ささやくような声が耳に入った。 「なるほど。怖かっただろう。大丈夫だ。それで、いまきみはどこにいるんだい。なにか見えるものはあるかい。木がたくさん生えている。空も見えるか。ほかに見えるものはないかい。どんな小さなものでもいいんだ。海が見える。ほう、なるほど。ありがとう。ちょっと待っていてくれ」  占い師が目を開く。女性に向きなおってたずねた。 「お子さんは海が見えるといっていますが、その山は海の近くなのですか」 「いいえ、内陸の山ですから海は遠いはずです。まさか、川に流されて海にまで行ってしまったのでは。どうしましょう。ああ、わたしのかわいい子どもが」  女性の顔が引きつる。混乱した女性は一瞬のうちに冷静さを失った。とにかくなにかをつかもうと両手が宙をさまよう。 「落ちついてください。子どもですから別のものを海と勘ちがいしているのかもしれません。湖とか池とか」 「そ、そういえば川をすこし下ったところにダムがありました。きっとわたしの子どもがいるのはそのダムの近くです。ねえ、そうでしょう。そうにちがいありません。居場所がわかったのならいますぐ迎えに行かなくては。こうしてはいられません」  いすから立ちあがりかける女性を占い師が引きとめる。 「待ってください。ダムの近くといっても範囲は狭くありません。もっと絞りましょう」  占い師が子どもとの会話を再開する。 「さっき、空が見えるといったね。太陽は見えるかい。そうだ、太陽だ。その太陽はどこに見える。海のほうかい。それとも反対側かい。わかった。海のほうに太陽が見えるのだね」  占い師は子どもから得た情報を母親へ伝えた。 「この時間にダムと同じ方角に太陽が見えるということは、子どもがいるのは上流から見て左側でしょう」透視で周囲の地形を確認しながら占い師は言った。「ピンポイントで場所をしぼれればよいのですが、これ以上は手がかりになりそうなものはないですね」 「これで十分です。すぐに子どものもとへ行きます」  部屋からあっという間に女性のすがたが消えた。ひとり残された占い師がつぶやく。 「遺体すら見つからないのでは残された遺族も無念がはれないだろう。だが、わたしの死者と話す力は本物だ。きっと、あの母親は息子の遺体を見つけられることだろう」 〈了〉
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