Peacock

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「え、昨日の私の自撮り見た?  めっちゃ盛れてない?」 「見た見た!てか今日も配信しない?」 教室の片隅で寝たふり。 姦しい喧騒を聞きながら思う。 女子高生って言葉は、 可愛い子のためにある言葉だ。 可愛いければなんでも許される。 …私だって高校1年生になればなんて 期待して生きてきたのに。 「……」 突っ伏していた顔を上げて、 恨めしそうに声の方向を見つめる。 クラスの可愛い女の子たちが、 放課後の教室で騒いでいた。 ナチュラルメイクに短いスカート。 ネイルがどうとか、タピオカがどうとか。 「…はぁ」 ため息をついて私はまた突っ伏した。 華の16歳、私だって可愛く生まれていたら 教室の隅で縮こまることもなかったんだ。 「鈴芽(すずめ)さん、また寝てる」 「さっさと帰ればいいのに…」 そんな寝たふり陰キャの私に クラスのどこからか声が聞こえる。 「っ!」 そんな声が怖くて私は教室を見渡す。 小中高ずっと一緒で幼馴染の孔哉(こうや)が 教室で友達と話しているのが視界に入った。 「…孔哉っ」 「ん?」 私がぼそっと呟くと、バッチリと目が合う。 そして彼はそのままこちらまで歩いてきた。 「なんだよ、鈴芽。また独りか?」 「う、うん…」 「しゃーない、一緒に帰るか!」 整ったビジュアルを輝かせて笑う孔哉。 モデルのような高身長で、 アイドルのような綺麗な顔立ち。 幼馴染の私から見てもイケメンだと思う。 中学の頃はパッとしなかったのに 高校1年生になって随分と垢抜けた。 「…鈴芽さん、また孔哉くんと話してる」 「あんな陰キャがなんで…」 「全然釣り合ってなんかないのにね」 「っ!」 教室のどこからかそんな声が聞こえる。 孔哉はかっこいいから、クラスでの人気者だ。 私と孔哉はその昔幼い頃に 「結婚しよう」なんて誓い合った仲。 今やそれは叶うどころか、 付き合うことすら烏滸がましいほどだ。 人気者が私みたいなパッとしない女と 話していたらこうなるに決まっている。 「ほら、気にすんな。いくぞ」 「う、うん…」 でも孔哉は優しくこうやって手を引いてくれる。 孔哉には助けられっぱなしだ。 私だって…可愛かったら…。 野暮ったい前髪と黒縁眼鏡を揺らして、 私は鞄を持って逃げるように教室から出た。
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