Peacock

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「タダで、とは言いません。  悪魔は契約にはうるさいので。  貴女のお望みのものを与えましょう」 「望みのもの?」 「はい、例えばそうですね…」 悪魔はニヤリと笑い… 「誰もが振り返るような美貌、とか」 ほら喰いつけと言わんばかりの挑発的な表情。 「…っ」 思わず息を飲んだ。心が揺れ動く。 それを見透かしたのか悪魔はまた笑い、 ミュージカルのように諸手を広げ、 嬉々として語り始める。 「美しい容姿っ!完璧なスタイルっ!  女優やアイドルになるもよし!  一般人でチヤホヤされるもよし!  薔薇色の人生が貴女を待っていますよぉ?」 大袈裟なまでに体を揺らす。 胡散臭い…でも、目が離せない。 「着飾ることは罪ではありません!  この世は見た目が全てです!」 悪魔は長い人差し指で私を指差す。 「その野暮ったい三白眼の一重瞼も、  重たーい前髪も、ダサい黒縁眼鏡も!  みーんな捨てちゃいましょうよ」 悪魔は耳元で吐息混じりに囁いた。 ふっとかかった息に私は身体を震わせる。 「そうですねぇ…例えばそのジャージ。  それをあなたのにして差し上げましょう。  身に纏えばあら不思議、  誰もが振り返る美人に大変身しますよ?」 私が着ているヨレヨレになった ジャージを指差して悪魔は嘯く。 「契約なので、多少の制約はつきますが…。  今回は『何があっても皮を脱がないこと』  とさせていただきます。  どうです?悪い話ではないでしょう?」 悪魔の言葉を聞いて、私は思う。 誰もが振り返る美人になれば人生は楽しい。 なにより…孔哉の隣に… 「……」 「あはっ!ご契約、ありがとうございます!」 気がつけば私は悪魔の契約に頷きで返していた。
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