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 清山紗香という女の異質さはその風貌からも感じ取れる。  よく言われることだが、『長く一緒にいると風貌が似てくる現象』というのがある。長年連れ添った夫婦だったり、飼い主とペットだったり、もともと似ているはずがない存在なのにずっと一緒にいることで少しずつ似てくるのだ。  その理由は『一緒に生活する相手を無意識に模倣するミラー効果のため』らしい。いつだったか、そんな話を聞いたことがある。内容にはあまり納得はできなかったが、それでも自分が属する集団に染まるということは確かにあると思っている。  俺が所属する組織犯罪対策部、通称『組対』、いわゆる『マル暴』は暴力団を相手にすることが多い。強面のヤクザと日常的に接触するからか、組対の警察官はヤクザみたいな見た目になっていく。  警察官とヤクザ、それぞれの新人を比べるとそんなに似ていないのに、十年もすればどっちがどっちだかわからなくなったりする。  しかしヤクザの中で育った清山紗香の見た目は繊細の一言で、それが俺には不思議でならなかった。長いまつ毛で縁取られた大きな瞳は、ずっと見ていたくなるような不思議な魅力がある。白磁のように透明感のある滑らかな肌と艶のある長い黒髪は可憐で、清らかで、動かなければまるで人形のような楚々としたお嬢様に思えた。  そう、動かなければという前提が必要だ。そう考えると同時、咎めるような声が思考を遮った。 「失礼なことを考えているでしょ?」  野生の獣のような勘を働かせて指摘したのは誰あろう清山紗香だった。 「仕事のことを考えていたんだが。失礼なことってのは?」 「嘘つき。顔を見ればわかるから」 「そりゃすごい。じゃあ俺が今何を考えているかわかるのか?」 「わかるわけないでしょ。馬鹿なの?」 「それもそうだな。じゃあ仕事の話をしよう」  清山紗香は俺の雇い主だが、なるべく気安く接するようにしている。かしこまった態度をとると不機嫌になるためだ。とはいえ気安くしすぎても問題なので線引きが難しい。正直に言えば余計なことを考えずに丁寧語で距離をおいて接したいところだ。
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