1.

1/3
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

1.

『――おい、ワタル! 今どこにいるんだ?』  暗闇の中、ノイズ混じりのざらついた音声が響いた。ワタルは待ち構えていたようにトランシーバーに飛び付き、通話ボタンを押す。液晶に表示された「チャンネル9」の文字を見て眉を顰めた。 「ダイ……?」 『そうだよ。で、今どこだ? ひとりなんだろ?』 「う、うん。隠れてる……」 『よし。探しに行くから、近くに見える物を教えてくれ』  ワタルは廃倉庫から這い出て、頭上に聳える巨大な影を見上げた。編み上げられた鉄筋の間にゾッとするほど白い月が浮かんでいる。 「鉄塔……鉄塔の下らへんにいる」 『わかった。俺が行くまでそのまま隠れてろよ。出歩くと危ないからな』  さらに二、三やりとりをして通信を終える。友人の声を聞いて手の震えは治まったが、恐怖と緊張で固まった指はなかなかトランシーバーから離れてくれなかった。  抱えた膝に顔を埋め、深呼吸を一つ。  覚悟を決めて隠れ場所を移動した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!