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1.
『――おい、ワタル! 今どこにいるんだ?』
暗闇の中、ノイズ混じりのざらついた音声が響いた。ワタルは待ち構えていたようにトランシーバーに飛び付き、通話ボタンを押す。液晶に表示された「チャンネル9」の文字を見て眉を顰めた。
「ダイ……?」
『そうだよ。で、今どこだ? ひとりなんだろ?』
「う、うん。隠れてる……」
『よし。探しに行くから、近くに見える物を教えてくれ』
ワタルは廃倉庫から這い出て、頭上に聳える巨大な影を見上げた。編み上げられた鉄筋の間にゾッとするほど白い月が浮かんでいる。
「鉄塔……鉄塔の下らへんにいる」
『わかった。俺が行くまでそのまま隠れてろよ。出歩くと危ないからな』
さらに二、三やりとりをして通信を終える。友人の声を聞いて手の震えは治まったが、恐怖と緊張で固まった指はなかなかトランシーバーから離れてくれなかった。
抱えた膝に顔を埋め、深呼吸を一つ。
覚悟を決めて隠れ場所を移動した。
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