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「……だ、ダイ……ッ」
ワタルは倒れてきたダイの下で身を捩り、なんとか上体を起こした。膝に乗せるようにしてダイの顔を覗き込む。彼は表情を驚愕で強張らせ、ひゅうひゅうと掠れた呼吸を繰り返していた。
「ダイ、どうした? 大丈夫か?!」
事態を把握しようと周囲を見回し、目を留める。
地面に突き刺さった鉈。僅かに付着した血痕はワタルのものだ。それがどういう意味なのか、言葉にするまでもなく、わかってしまう。
「うそ……ダイ、まさか僕を――?」
「ワ、タル……」
震える唇から漏れた声は、唾液と呼吸によってザラついていた。
「はや、く、逃げろ……ワタル……」
「何言ってんだ? ダイ、どうして――」
ハッと言葉を呑み込んだ。
次にワタルが発見したのは、ダイの広い背中から突き出した一本の棒――いや、より正確に言うならば、上部に小さな羽状の突起が付いたソレは、彼の背中に深々と突き刺さっていた。
恐る恐るソレに手を伸ばす。根元を囲むように血が滲んでいた。
「ダイ……っ!」
「敵、が……近くにいる……ワタル、ここを……離れるんだ……」
「そっ、そんなことできるか! 嘘だろ、そんな――ダメだ、ダイ、諦めるな! 今手当してやるから……!」
ワタルはボウガンの矢を掴むと、力一杯引き抜いた。ダイが小さく呻き声を上げると同時に、矢じりが繊維と肉片を伴って姿を現す。途端に患部に広がる赤い染みが広がった。
「そんな……!」
咄嗟に患部を手で押さえるけれど、そんなことで血が止まるはずもなく。出血は体の外より中の方が深刻だった。ワタルの目には見えないが、損傷した腹腔内に血液が溜まっていき、今まさにダイは重篤な失血性ショックを引き起こしていた。
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