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私の胸は大きい。
肩は凝るし、似合う服が少ない。痴漢にも遭いやすい。
道を歩いていると、すれ違う男たちは、私の顔でも、スカートから伸びる細く長い足でもなく、私の胸を見る。見ていないというふりをして、ちらちらと胸を見る。
人間の男というものは、そういう生き物だ。
男なんて、サイテー、と普通なら言うところだが、私にとってはありがたい。胸を見ているせいで、私の顔を見ないからだ。
今日も私は満員電車に乗る。
しばらく乗っていると、胸に手が伸びる。痴漢はお尻を触るものだと思われがちだが、そうでもない。
胸をつつく人もいれば、大胆に鷲掴みにする男もいる。
今日は後者だった。
私はいつものように、その手をつかんで、電車から引きずりおろす準備をする。大きな声を出したりはしない。
何しろ、カモなのだから。
私の大きな胸に翻弄される、カモなのだから。
でも、今日はその手を別の手がつかんだ。
私の隣にいた男性が、痴漢に気がついて助けてしまったのだ。
痴漢はそそくさと離れていってしまった。
「ありがとうございます」
私は小さい声で礼を言う。他の人には聞かれたくない。
男はいえいえ、という感じで手を振りながら、優しげな顔で微笑む。
でも、その目はやっぱり、私の胸を見ている。
こいつでいいか…。
私は思う。
私はその男が電車から降りるのを待って、同じ駅で降りる。
しばらく後をついて歩いて、よさそうな場所を探す。
そして、人目を避けられそうな路地の手前で彼に声をかける。
「あの、さっきはありがとうございました」
振り向いた彼は、やはり私ではなく、私の胸を見た。
やっぱり、こいつもか。
でも、それでいい。
なぜなら、彼は私の顔をよく見ないから。私の前髪の下に隠された、3つ目の目のようなものに気がつかないから。
私は彼を路地に連れ込む。
「どうしても、お礼がしたくて」
私はそう言いながら、彼を壁に押しやる。
もちろん、胸元をさっきより多めに開けておくことも忘れない。
彼の視線が私の胸に釘付けになっていることを確認すると、私は前髪の下の3つ目の目を使う。
それは目ではなく、卵管だ。
私は彼が気がつかない間に卵管を伸ばして、彼の耳に差し込み、卵を送り込む。
気がついた時には、時すでに遅しだ。
呆然とする彼を路地に残して、私は立ち去る。
男は自分に何が起こったのかわからないまま、いつもの生活を続ける。
女の胸に釣られて起こったことなので、恥ずかしくて人に話すこともできずに、時は過ぎる。
そして、1ヶ月もすると、彼の体を突き破って、私の子供たちが外へと出てくる。
それまでに、私はできるだけたくさんの男に卵を送り込まなくてはいけない。
私の住んでいた星にいた私の仲間たちは、伝染病でほとんど死に絶えた。
なんとか生き延びて地球に来た3人の仲間は、地球で仲間を増やす方法を見つけた。
けれど、私以外の2人は、地球の環境に順応出来ずにまもなく死んだ。
たった1人の生き残りの私は、できるだけたくさんの仲間を産み出して、地球を乗っ取らなくてはならない。
地球に来てから、もういくつの卵を産みつけただろう。何千、何万、何十万…。
生まれた子供たちがまた仲間を増やして、まもなく地球人はいなくなり、地球は私たちの星になるだろう。
もしも、私の胸がもう少しだけ小さかったら、地球の人類は滅亡せずに済んだのかもしれない。
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