第92話 一番大事な存在

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第92話 一番大事な存在

 2人で庭へ出た途端、俊也が言った。 「母さん、一体どうなっているんだよ?」 「どうなってるって…何が?」 「だから、ジョシュアさんの事だよ」 「ジョシュアさん…」 その名前に昨夜の事を思い出し、年甲斐もなく?顔が赤くなってしまった。 「あ、赤くなった…。母さんの顔が赤くなってる…」 俊也がグラリとよろめいた。 「な、何よ。大袈裟ね…彼の名前を呟いたくらいで…」 「彼?彼って言ったね?!まさか、母さん…あの人と再婚するつもり?!」 「ちょ、ちょっと待って!誰かに聞かれたらどうするの?声が大きいわよっ!し〜っ!」 私は慌てて小声で注意した。 「あ…ご、ごめん…つい興奮して…」 俊也はため息を付くと言った。 「だけど、俺は嫌だよ?彼のことを父さんと呼ばなければいけなくなるの?」 「は?」 どうやら俊也は大変な勘違いをしているようだ。 「ちょっと落ち着きなさい。どうやら俊也も今の記憶よりも前世の記憶の方を引きずっているみたいね。いい?よく考えて御覧なさい?確かに私達は前世では親子だったけど、今世では親子じゃないのよ?一応赤の他人なんだからね?」 「う…た、確かにそうだけど…」 それでも俊哉は不服そうだ。 「そう言えば…俊也、貴方はこの世界で何歳なんだっけ?」 今更ながら年齢を聞くのを忘れていた。 「俺?俺はこの世界では26歳だよ?」 「26歳!私の年齢より上じゃない!」 「あ…確かに言われてみればそうかもなぁ…でも今の俺には母さんは母さんとしてしか見れないよ」 「ええ、私もそうよ。貴方の事は私の息子の俊也としてしか見れないもの」 「だったら一人息子の頼みを聞いてくれよ。ジョシュアさんとの結婚…考え直してくれないかなぁ?」 「だ、か、ら!どうしていきなり結婚の話になるのよ!だ、第一告白はされたけど、プロポーズなんかされていないのよ?」 「ああっ!や、やっぱり告白されたんだねっ?!そ、そんなぁ…」 俊也は側にあった樹木に頭を押し付けてしまった。何だかまるでその姿は… 「俊也…貴方のその格好…まるで母親の再婚を嫌がる子供みたいよ…」 すると俊也は顔を上げて私を見ると言った。 「そ、そりゃそうだよっ!こっちの世界では俺は孤児だったんだよ?前世の記憶があったものの…ずっと孤独で…ようやく今世で母さんと再会出来て、少しずつ親子の時間が取り戻せるかと思ったら…いきなりあんな男性が現れて…」 ははぁん…なる程、やはりそういう事だったのか…。 「馬鹿ね…俊也は。ちょっと頭下げてくれる?」 「?」 訝しみながらも俊也は頭を下げた。そこで私は背伸びして、自分よりも年上で背も高い俊也の頭を撫でてあげた。 「え?か、母さん…?」 「私と俊也は外見が変わってしまっても、親子だったことに変わりないんだから。誰が現れても私の中では俊也が一番大事だからね?」 「あ、ありがとう…」 俊也は真っ赤になって返事をする。 「さて、それじゃそろそろ戻りましょうか?ウィンターの様子も気になるし」 そして屋敷に戻ろうとした時、俊也が声を掛けてきた。 「あ、そう言えばさ…彼…ウィンターの事はどう思ってる?」 「え?ウィンター?う〜ん…そうねぇ…?」 私は少し考えて答えた。 「シェアハウスの厨房担当の従業員?てところかしら?」 「…それだけ?」 「そう、それだけ」 「…気の毒に…」 「え?何が気の毒なの?」 「い、いや。なんでも無いよ。それじゃ戻ろうか」 「ええ、そうね」 こうして私と俊也は屋敷の中へと戻って行った―。
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