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第91話 子供のお使いじゃあるまいし
2人でいつものように厨房に並んで立って料理をしているのだが…。
「ちょっと、な~に?何だか今日は随分視線を感じるんだけど…言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」
料理の味付けをしながら私は隣でニンジンを切っているウィンターに言った。
「い、いえ!ベ、別にみてなんかいやしませんよ!」
ブンブン高速で首を振るウィンター。
「ふ~ん…そう。なら別にいいけど…あ、そうそう。朝食後は出掛けて来るから後片付けはアネットと一緒にやって頂戴ね。その後はブランカと一緒に畑仕事をやって頂戴ね?」
「はい!お任せください!それにハーブも育てるんですよね?!ちなみにゲルダ様はどんなハーブが好きなんですかっ?!」
妙に勢いづいて質問して来るウィンター。
「え?私?そうねぇ…ミントやローズマリーはハーブティーとして飲めるから好きね。それにタイムやパセリ、バジルなんかは料理に役立つわよね?」
「なるほど、その4種類のハーブが好きなんです?そうだ!出掛けるって事は町に行くわけですよね?なら俺も買い物に行くので一緒に行きましょう!」
「何言ってるのよ。ウィンターは後片付けがあるでしょう?まさか本来厨房係でありながら自分の任務を放棄して、アネットに全て押し付ける訳じゃないでしょうね?」
「ま、まさか!そんな事しませんよ!でも…仕方ないですね…仕方ありません。今日は一緒に出掛けるのはやめますが、次回は必ず一緒にハーブを買いに行きましょうね?」
その言葉に驚いた。
「え?ちょっと待ってよ。まさか私と一緒に買い物に行くつもりなの?子供のお使いじゃあるまいし、1人でハーブの苗くらい買いに行けないわけじゃないでしょうね?」
「い、いえ!そうじゃなくて俺はゲルダ様といっしょに…」
そこまでウィンターが話しかけた時―。
「おはよう!ウィンターさん。ゲルダさん!」
大きな呼び声に驚いてふり向くと、そこには何故か仏頂面の俊也がドアに寄りかかってこちらを見ている。
「あら。俊…ううん、ルイスさん。今朝は随分早いのね?」
ウィンターがいるのに、危うく『俊也』と呼びそうになってしまった。
「チッ!おはようございます…」
ウィンターが隣で舌打ち?した気がする。
「今朝は早く目が覚めたんですよ。ところでゲルダさん。少し話したいことがあるので、外に出ませんか?」
「え?!何言ってるんです?!今、ゲルダ様は俺と料理の真っ最中ですぜ?」
すると俊也が言い返す。
「ウィンターさん。ですが厨房の仕事は元々貴方の仕事ですよね?それなのにシェアハウスのオーナーのゲルダさんに手伝わせるのはどうかと思いますけど?」
何故か、あの俊也がイライラした様子でウィンターを見ている。う~ん…何やら余程大事な話があるのかも…。
「分ったわ、話を聞きましょう。ウィンター、後はよろしくね?」
「ええっ?!行ってしまうんですかっ?!」
「ええ、そうよ。もう下ごしらえは殆ど終わっているのだから、後は大丈夫でしょう?」
そして私は俊也に言った。
「それじゃお話しに行きましょうか?」
「ええ」
俊也は大きく頷き…2人で厨房を出て行った。2人きりになると俊也が小声で言った。
「誰かに聞かれたくないから外に行って話をしよう」
「ええ、いいわよ」
そして私と俊也は連れ立って外へと出た―。
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