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第93話 何でいるのよ?
「ではゲルダさん、仕事に行ってきますね」
ジョシュアさんが笑顔で私に手を振る。
「はい、行ってらっしゃい」
リビングで洗濯物を畳んでいた私は手を止めてジョシュアさんに挨拶した。ジョシュアさんが嬉しそうに部屋を出ていくと、両端から視線を感じる。
「な、何よ…」
「何だかすっごく良い雰囲気ですね〜…」
アネットがからかうような口調で言う。
「そ、そんな事無いんじゃない?」
照れ臭いのを隠しつつ、冷静に答える。
「ああ、そうだ。アネット、いい加減な事言うな!」
何故かリビングで玉ねぎの皮むきをするウィンターが口を挟んでくる。
「何よ!ウィンターッ!大体なんでリビングで玉ねぎの皮なんか剥いてるのよ。洗濯物に玉ねぎ臭がうつるでしょう?あっちでやんなさいよっ!」
アネットが文句を言った。
「別にちゃんと仕事してるんだからどこでやったって構わないだろう?大体換気のために窓だって開いてるじゃないか、ほらっ!」
ウィンターが指した先には窓があり、大きく開け放たれて外で家財の修繕をしているジョンとジェフの姿が見える。
「2人とも…仲がいいわねぇ…」
「「はぁっ?!何処がですかっ!!」」
洗濯物を畳みながら言うと、アネットとウィンターが同時に声を上げた―。
****
「それじゃ、タクシー会社に行ってくるわね」
外出着に着替えた私はアネットとブランカに声を掛けた。
「はい、行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃい、ゲルダさん」
2人に見送られながら外に出た私は驚いた。何と帽子を被ったウィンターがニコニコしながら扉の前に立っていたのだから。
「お待ちしてましたよ、ゲルダ様」
「な、何でウィンターがここにいるのよっ?!仕事は?畑仕事はどうしたのよ?!」
するとウィンターが肩をすくめながら言う。
「ええ、それが畑仕事をやろうと思っていたら肝心の肥料が無くなってしまったんですよ。ゲルダ様もこれから町に行くんですよね?俺も買い物があるので2人で一緒に出掛けましょうよ。別々に出かけるより一緒に辻馬車に乗ったほうが路銀も浮くでしょう?」
尤もらしい話をするウィンター。
「…全く、仕方ないわね。でも町に着いたら別行動よ?私は忙しいんだから買い物に付き合ってられないんだからね?」
「ええ、それでも構いませんから。さ、早く行きましょうぜ」
ウィンターはニコニコしながら言う。…全く何がそんなに嬉しいのだか…。
「分かったわ、行きましょう」
そして私とウィンターは辻馬車を拾うために、2人並んで大通りを目指した―。
****
ガラガラと走る馬車の中でウィンターが尋ねてきた。
「ゲルダ様はどちらに行かれるんです?」
「ええ、まずは銀行に行くわ。これから大金を引き出さないといけないから気をつけなくちゃね。そのお金を持って今度はタクシー会社へ行くの。そこで3人の若者を引き抜いてくるのよ」
「ええっ?!ま、また男をはべらすんですかいっ?!」
は?はべらす?!一体何という言い方なのだろう。
「ちょっと、人聞きの悪い言い方しないでくれる?大体私がいつ男をはべらしてるのよ?」
抗議すると生意気にもウィンターが口答えしてくる。
「はべらしてるじゃありませんかっ!大体、今のシェアハウスだって男の方が人数多いじゃありませんか。それなのに更に3人も増やすなんて…!何で今の人数で満足できないんですかっ?!」
「はぁ〜っ?!」
ついにこの言葉に切れた私は、目的地に着くまでの間、馬車の中でウィンターと口論を続ける事になるのだった―。
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