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第94話 必要な人材とは
「ゲルダ様〜俺が悪かったですから許して下さいよ〜」
辻馬車を降りて銀行へ向かう私の後を何故かウィンターがついてくる。
「ちょっと!何でついていくるのよ!貴方は園芸店に行って肥料を買ってくるんじゃなかったのっ?!」
「いや〜そうなんですけどね、ほら。さっき大金を引き出すから気をつけないとって言ってたじゃないですか?だから護衛…むごっ!」
私は咄嗟にウィンターの口を塞ぐと腕を引っ張って、路地裏へと連れて行った。そして辺りをキョロキョロ見渡した。
「よし、ここなら人の気配は無いわね…」
ここならウィンターに伝えておきたいことを言える。すると何を勘違いしたのか、ウィンターが妙な事を口走った。
「こ、こんな人気の無い路地裏に引っ張り込むなんて…ゲルダ様は大胆な方ですよね…?」
そして何故か顔を赤らめて私を見下ろす。
「はぁ〜っ?!何訳の分からない事言ってるのよ?いい?とにかくあんな町中で大金を引き出すとか言わないでよっ!いつ、何処でどんな人間に聞かれるか分からないでしょう?!もっと考えて喋りなさいよ!」
「ですから護衛をしますって言ってるんですよ」
ウィンターはケロリとした顔で言う。全く…最近のウィンターは私が何を言っても堪えないのか、ニコニコする一方である。
「…仕方ないわね。それじゃ銀行に行って現金を引き出した後は別行動よ」
「それじゃ危ないですって!銀行にいた人間が後をつけるかもしれないじゃないですかっ?!」
全く…ああ言えばこう言う…。
「分かったわよ…それじゃタクシー会社までよ。その後はちゃんと園芸店に行って肥料を買って屋敷に戻るのよ?」
「え?タクシー会社の帰りだって危ないんじゃないですか?」
「それなら大丈夫よ。私はタクシーに乗せてもらって帰るんだから」
「え?!そうなんですかっ?!まさか早速今日から男をはべらすんですかっ?!」
ぷちっ
私がその言葉に再び切れたのは言うまでも無かった―。
****
銀行を出た私とウィンターはタクシー会社目指して歩いていた。
「しかし、400万シリルも引き出すとは…中々太っ腹ですね?ゲルダ様は」
大金をショルダーバッグに入れて歩く私にウィンターは言う。
「太っ腹とかそういう問題じゃないわよ。何しろこのお金はこれからタクシー3台の買い取りと、3人の若者たちを引き抜くための必要経費なんだから」
「そうですか。それで?その3人の若者たちって何者なんですか?」
「何者も何も…彼らは全員タクシー運転手だけど?これから私の事業に必要な人材だから引き抜いたのよ?」
「必要な人材…勿論、俺もゲルダ様にとって必要な人材ですよねっ?!」
「ええ…そうね?ちゃーんと役立ってくれるなら必要人材とみなすけどね?」
「分かりました!これからもっと頑張って働くんで、頼りにして下さいよ?」
そんなウィンターを横目で見ながら私は思った。
大分、ウィンターも役に立てる様になったんじゃない?
そしてウィンターをお供に連れた私はタクシー会社を目指した―。
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