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第95話 皆のゲルダ
ウィンターを伴ってタクシー会社を目指す為に辻馬車に揺られていた。馬車の窓から外を眺めていると、不意に向かい側に座るウィンターが声を掛けてきた。
「ゲルダ様」
「何よ」
「あのジョシュアって男…いけ好かないです。追い出しませんか?」
「はぁっ?!」
突然の言葉に驚いてウィンターを見る。
「ちょっと、何言ってるのよ?寝ぼけるのも大概にして頂戴?」
「別に俺は寝ぼけてなんかいやしません。ちゃーんと起きてますって」
「大体何で追い出さないといけないのよ?彼はシェアハウスの住人で、お客様なのよ?彼は貴重な私達の収入源だと言うことを忘れていない?」
むしろ追い出すべき人物は目の前のウィンターが適任だ。
「だって…あいつ、俺のゲルダ様に色目なんか使って…ほんっとに自分の年齢を考えて行動しろって言ってやりたいですよっ!」
「年齢…」
それをならむしろ年齢を考えろと言われてしまうのは私の方だろう。前世と今世の年齢を合わせれば67歳のおばあちゃんになるのだから。
ん?そう言えば今、ウィンターは何と言った?
「ちょっと!そう言えば…ウィンター。今、私の事何て言った?『俺のゲルダ様』って言わなかった?」
するとウィンターは開き直ったかのように言う。
「ええ、言いましたよ?俺のゲルダ様」
「ちょっとっ待ちなさいっ!私がいつウィンターの物になったのよ?いい?私はね、『皆のゲルダ様』なんだからねっ?!」
腕組みをして言い放ってやった。そう、私はシェアハウスのオーナー。『皆のゲルダ』なのだから―。
そんな私をウィンターが呆れた目で見ていたのは言うまでも無い―。
****
「どうもありがとうございました」
タクシー会社の前で辻馬車を下ろしてもらった。
「い、いえ、またのご利用をお待ちしております」
御者は目的地がタクシー会社だというのが嫌だったのだろう。まるで逃げるように馬車を走らせて行ってしまった。そして背後からは待機中のタクシードライバー達の突き刺さるような視線…。
「う〜ん…やはりタクシー会社に辻馬車で乗り付けたのはまずかったかしら…」
「気にすることはありませんぜ?文句があるやつは俺が片っ端からのしてやりますよ」
ウィンターが指をポキポキ鳴らしながら言う。
「ちょっと、物騒なこと言わないでくれる。私達はここに喧嘩しに来たわけじゃないんだから。…というわけで、ウィンター。もう貴方は園芸店に行きなさい」
「えええっ?!こんなところまでついてこさせて追い払うんですかいっ?!そんな殺生なっ!」
「何言ってるのよ、勝手についてきたのは誰よ!私は何度も園芸店に行きなさいって言ったわよ?!大体、園芸店は目と鼻の先にあるでしょう?!」
そう、偶然にもタクシー会社の向かい側には園芸店があったのだ。
「そんな、折角ここまでついてきたんですから、最後まで付き合わせて下さいよっ!」
2人でタクシー会社の前で揉めていると―。
「ゲルダ様っ!お待ちしていましたっ!」
タクシー会社からクリフ、ハンス、ケンの3人がこちらへ向かって走ってくる姿が目に入った―。
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