追悼哀歌

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 ねえ、今、どこにいるの。  いってきます、と。彼女は言った。  いつもと変わらない挨拶。いつもと変わらない衣装。  なのに、いつもと変わらない、「ただいま」の声は、どれだけ待っても聞こえてこなかった。  「魔法少女」である彼女は、「一般人」である私を守るために、いつも通り出かけていった。  今日の敵は、強大な力を持っていたらしい。  私には、わからない。見えないのだ、そもそも。敵は大抵恐ろしい姿をしているから、それで怯えてはいけないからと、魔法少女が戦い始めたらもう、私達には、「一般人」には、何も分からない。  どうしようもなかった。  私には、関係のない、関われない世界での、話だった。  でも、私は、彼女の歌が好きだった。  魔法少女の能力だよ、と、照れたように笑った彼女の顔が、好きだった。  彼女の声も、体温も、気配も、何もかも、大好きだった。  そしてそれは、今朝がたまですぐ隣にあったのに。もう触れない。
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