追悼哀歌

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 いってきます、と。彼女は言った。  いつもと変わらない挨拶。いつもと変わらない衣装。  ただいま、と言えなかった彼女の代わりに。  ごみの溜まった部屋は薄暗い。ただひとつ小綺麗にされている小机の上には、ブローチだろうか。真ん中の辺りが何かに撃たれたかのようにひび割れた、美しい翡翠が置いてあった。  台所にはいくつかの薬。ペットボトルが、何本もそのあたりにほったらかしにされていた。  「魔法少女」である彼女は、「   」の少女を救うためだけに出かけて行った。  彼女の歌は、敵を打ち倒す武器は、物悲しい。  愛と、哀と、憎悪のこもった歌だった。愛していた彼女の歌を、彼女は何かに取りつかれたかのように歌い続けていた。  敵がいなくても。  その力で周りの人を傷付けても。  涙を、こぼしながら。
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