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「もう帰っちゃうのー?夕飯作るし、一緒食べようよー」
ベッドの中から昨夜、寝た、宏弥が裸のまま、慌てて起き上がる。
一晩泊まり、しばらくテレビを観ながらリビングで寛いでいたが、身支度を始めた。
「あー、悪い。明日の課題、まだ終わってなくてさ、レポートも提出しなきゃだから」
「そうなんだあ...大悟が泊まるんならって、食材、用意してたんだけどなあ」
拗ねる宏弥にボクサーとTシャツ姿だった大悟はさっさと服やアクセサリーを身に纏う。
「また今度な」
そうして宏弥の部屋を出た後は一旦、自宅に帰り、シャワーを浴びると、姿見を前に一張羅を再び身に纏う。
タイトなブラックなシャツとホワイトのスリムパンツ。
そして、手首に軽くコロンを振り、首筋に手首を押し付ける。お気に入りのピアスとネックレス、ブレスレットと腕時計も忘れない。
茶色く染めた髪もセットし、夜の街に繰り出す。
行きつけのゲイバー。
地下への階段を降りていると、爆音が漏れている。
扉を開けるとそこは異空間。
当たり前だが、右を見ても左を見ても男しかいない。
大悟はいつも通り、ミラーボールだけが照らす暗闇の中、まずはカウンターへ立つと、ジンバックを頼み、グラスを手に周りを見渡した。
ふと目に止まった。
大悟から2メートル程、離れた先、身長はそこまで変わらない。
黒髪と端正ながら凛とした横顔。まっすぐな漆黒の瞳は少し切れ長で、程よい鼻の高さが上品さを醸し出し、形がいい薄い唇。
不意に大悟の視線に気づいたのか、目が合い、その瞬間、いつもと変わらず、微笑んでみせた。
可愛い、だとか、爽やか、だとか言われる大悟の雰囲気、笑顔。
今まで落ちなかった男はいない。
が、一瞬で砕け散った。
男は大悟を瞬時に睨みつけ、すぐさま、再度、まっすぐな瞳でカウンターの奥を見つめ、グラスを傾けた。
「やめといたがいいよ、あいつ」
不意に大悟の肩に手を回され、振り向くと、ここで知り合った友人、所謂、悪友の孝之だった。
「耳聞こえねーのか知らねえけどさ、誰が話しかけてもシカト。しかも、ガン付けるし、何しにここに来たんだって話し」
「...まあ、みんながみんな、男狙い、て訳じゃないだろ」
「にしてもさあ」
大悟は興味本位で孝之を振り払い、男に近づき、歩いた。
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