知らない私と知ってる僕

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「今、どこにいるの?」  テレビの向こうで悲痛に訴えているのは、一組の夫婦。まだ、四十代であろう二人はそれまでの心労からかすっかり老け込んでいた。その中で、一縷(いちる)の望みにかける眼差しだけが強く光っている。  私は必死に呼びかける夫婦から目が離せなかった。ドクドクと耳鳴りがして情報が入ってこない。マラソンを走り切った後のようなに心臓が激しく脈打つ。胸元に残る傷跡がうずいた。 (お父さん! お母さん!)  胸の内から溢れる叫びに当惑した。  見知らぬ夫婦。今まで会ったこともない。 「……私は、知らない。知らないはずなのにっ」  否定する私の意思に反して、頬に熱いものが一筋、伝った。
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