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トムはバルコニーに立ち。腕を組んで四方を見ながら、ガトラーの気配を追っていた。
「帰りが遅い。封具を探しに行った行動は早いが、カクレへの放置は対応が遅い。」
日はもう傾き始めている。
ああ、もう、と苛立ちながら耳たぶをいじる。
ーどう?カクレは蔵書室にいた?
キュル…キュルと合図の音がする。髪を耳に掛ける音とはまた違う。ドロウと二人だけの秘密の音…なんて喜ぶような余裕はトムにはない。
「呼び戻すか。耳飾りなしでどれだけ言葉が飛ぶかわからないけど。」
ー…ガトラー戻って来て…
トムは魔力にのせて言葉を放つ。二回、三回と繰り返して、ガトラーの気配がどう動くか探る。
言葉を送った後に気配が動きを止めることがわかると、僕が話すと言った時、カクレは止めなかったと都合の良い解釈をした。
ー…ガトラー、助けて!
気配が一気に、こちらへ向いたのがわかった。ガトラーが帰って来るのがわかる。
ードロウ、来るぞ。いいか?
ーまだだ。
ーまだ?なにやってんだよ?
ーカクレの話を聞いてる。
そうこうしているうちに、ガトラーが戻って来てバルコニーに降り立つ、速い。
「トム、カクレになんかあったか?声が聞こえたけど…!」
トムは次の手を考えていない。
「声?なにも?森にいたんだろう?だいぶ向こうの。」
余裕がある顔をしてみる。
「なんかあったんだ。カクレに。どこにいる?」
風の音だろう?と言いながらなにかないかと、マントを探る。カラと数個の玉が手に当たった。
「これ、これ渡しておく。ドロウが全部持って帰るって言うから、まだ使ってないのを隠しておいた。」
ガトラーの手に玉が渡る。顔をしかめながら、それを受け取り、これがないとなと小さく礼を言っている。その玉と玉の隙間に一枚の紙片が挟まっているのを見てそれを開く。
「それか、それも渡そうと思ってたんだ。」
「グレンの字だ。」
トムはこれがお節介の最後だと、自分の中で最大の嫌味を込めて忠告をする。
「グレンはもういない。カクレだけを見て欲しい。カクレになにかあったら、すぐに迎えに来て、もうお前には渡さないから。」
ドロウから、いいよの合図が来る。
「あ、珍しい鳥。」
「どこ?どこ?」
ー…ガトラー助けて!
「ほら、カクレが呼んでる!」
聞いた聞いたと、トムは頷いて叫ぶ。
「蔵書室だ!」
走るガトラーの背を追った。
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