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トムの機嫌は、悪い。
「痛い。背中、すごい痛い。ガトラー本気でやりやがって。」
日はすっかり落ちて、二人は夜の山道を下っている。普通の速さで。トムはドロウをじろりと睨む。
「あのね、まともに食らうんじゃないよ。経験値もそれなりにある魔導士の免状を持った人が、わざわざ背中を見せるか?入って来る扉は一つしかないんだよ。」
「ああ…確かに。顔はやめて欲しいと思ったんだよ。歯が折れたりは嫌だろ?」
確かに、とは言わずにトムは頭を抱える。歩いている所を見ると、骨が折れている程ではないのだろう。背中で正解ではある。
トムは心残りをどうしても晴らしたくて、考えを巡らせていた。
「ドロウ大変だったな。大丈夫?怪我、診てあげるよ。」
ドロウは優しく声をかけてくれたのを不審にも思わず、こことマントをめくる。トムはそこに目掛けて蹴りを入れると、態勢を崩したドロウとついでに背負っていた荷物も置いて走り出す。
「明日に間に合うように、宿には帰る。今夜は使い物にならないだろうから、ゆっくり休め。」
こうやって、蹴りはなかったけれど、前もトムは走って旅に出てしまったとドロウは思い出す。
「待て、どこに行くんだよ!」
トムは何も言わない。
「あいつの所だな…。」
宿には帰ると言った。ならそこで待てばいいのだろうけれど。いっそこんな酷いことをされて、もう決別だと宣言してもいいようなものだ。でももう、ドロウはそれができない。
ドロウは痛む背中に鞭打って、トムの後を追った。
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