グレンはなんでも知っている

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「グエン!グエン!これ読んで。」  ノックもなく扉が開き、足音も慌ただしく。書斎で書き物をするグレンの元に幼い子どもが一冊の書物を持って来る。  昼寝をしていて静かだと思ったのに、また夜寝るまで騒がしくなるとグレンは頭を抱えて、黒髪を無造作に搔きむしる。 「後でね、あーとーで。今、グレンは忙しいから。」  ええ…と言いながらも珍しくすぐに静かになった子どもは床にそのまま寝転がって書物を読み始める。  カリカリ…というペンの音と、パラパラ…という紙の音が重なり、グレンは一時穏やかな気持ちを思い出す。ヤットキット紹介所でドロウと二人でいる時の耳飾りが通信を知らせる音、やすりが木を削る音、会話をしなくても目だけでやりとりができる程長く一緒にいた時間。手は無意識に紙の端にその気持ちを書き記す。  服の裾が引かれるてはっと現実に戻る。 「グエン、これ、絵がないの。ガトラーやっぱり読めないから、読んで。」  ガトラーが手に持っているのは「歴代魔王記」というグレンがあの蔵書室の中でも一番「くだらない」と思って隅に投げていた書物だった。 「ガトラーこんなもの読むな。グレンはおすすめしない。」  パラパラとめくっていると、ガトラーが膝に乗り込んで来る。ああ、もうと言いながらもグレンは乗せてやって、面白そうな「自慢話」を読んでみる。 「我は勇者の頭を持ち、そのまま高く持ち上げると…」  子どもに聞かせる話ではないと次を探す。 「我は勇者と対峙し、その頭めがけて魔力の光を放ち…」  これもだめだと、次は探さず本を閉じる。 「ああ…読んでよぉ。」 「もっと子どもらしいのを持って来い。そんなのないか。どっかで遊んで来なさい。グエンは忙しいから。」  それを聞いたガトラーに、グ・レ・ンでしょと言い直されると、うるせぇと返し、グレンはまた書き物を再開する。グエンがグレンになると隅に落書きをしながら、歴代魔王記を手繰り寄せて読みふけるのだった。
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