グレンはなんでも知っている

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「何度も言うけどね、そういう教育上良くない読み物を読むのは、やめなさい。」  青年になったガトラーは「歴代魔王記」を全て読み切り、もう何度もそれを読んでいるようで、さらにはグレンの武勇伝も聞かせて欲しいと言うようになっていた。 「だって、グレンも魔王の力を継承したんだろう?たまに来る勇者とやけに静かに話をしてるけど、結局いなくなってる。どうやって始末してるんだよ?」  グレンは成長するごとに強まるガトラーの魔王に対する憧れを心配していた。この子を魔王にするつもりはない、勇者の痣についても教えてはいなかった。ただ、憧れを言葉で諦めさせようとしてもこの歳にはそれは無理だと、自分の若かった頃を思い出してもいた。  魔法使いの老婆に言われた自分の寿命はもう過ぎている。ガトラーには自分がいなくなった後の道を考えさせなくてはいけない。 「ガトラー、魔王の修行だ。少し遊びに行って来るか?」  ガトラーの目が輝く。グレンは以前からここに来る勇者に使っていた、魔力を使って意識を奪う方法を「命を奪う方法」と教えてやり、送り出した。ここで別れたら、最後になるだろうとグレンにはわかってはいたが、いってらっしゃいと手を振ってそんな様子は見せなかった。 「魔王様…時間が…あと、僅かです…。」 「おばあちゃん、来たね。久しぶり。」  老婆は袋にカラカラとなにやら持っていた。 「まだ…時間が掛かるようなら…手はあります故…。」 「うん、もう少し時間が必要だ。まだ書き残したいこともあるし。頼むよ。」  ガトラーは読み終わった紙のしわを伸ばすように撫でながら。その手を眺めた。 「俺は、誰も手にかけてはいなかった。」  立ち上がると、扉を開けて出て、長い廊下を進む。途中、バルコニーへ出て、ここからなら届くだろうかと見よう見まねで魔力に言葉をのせた。 ー頭を割ろうとして、本当にすまなかった。カクレは俺が大切にするから、迎えに来なくていい。気を付けて。  カクレの部屋までの廊下を歩きながら考えていた。あの耳飾りを借りて、二人だけのを作ろう、これから必要になると。
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