グレンはなんでも知っている

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 ガトラーやったな、とトムが隣で急に笑い出すので、ドロウは訝しがって横を見る。その動きでまた背中が痛み、あう…と声を出した。 「宿屋に戻ったら、魔力で温めてあげるよ。かわいそうに。」  どの口が言うんだと睨むけれど、その顔は本当に憐れむように、心配そうにしていて、さっき蹴りを入れられたことなど吹き飛んでしまう。 「食器だな。匙が怪しい。怖いよな、狙われてたんじゃないの?」 「匙?」 「飯食うときに口に含むだろう?魔力を視るのに長けた奴はそれくらいでもわかる、らしい。」 「グレンが言ってたの?」 「その匙も積もり積もれば、俺に見つけられるくらいの量になる…か。お前の魔力が混ざる俺を見つけて、餌をまいたんだろうけど。」 「話をなんで聞かなかった?」 「グレンはもう、いいだろ。」 「違う、月に一度来たとき、僕の話は聞いてくれなかった。いつも一方的に話すばかり。今はそうじゃなくなった。どうして?」 「決められてるんだよ。魔導士の取り決め。契約した者の話は極力聞かない。そっちに入れ込んで、魔導士としての判断ができなくなるからな。」 「契約ね。あの夜も、本当なら来なかった?」 「契約した者が自分の魔力に焼かれて死ぬならそれまでだ。でも、違うだろう、トムは。」 「大事な勇者だったからね。失うのは、もったいない、と。」 「そうじゃない。わかれ。」  ドロウから下を見ると、トムの月の目がこちらに向く。 「月の目でも、魔力の量でもない。俺は消していって残ったからじゃない。お前がそれでもいいから。」  どっかに行ったら追いかけるまでだ。とまた背中が痛み呻く。 「僕だって…ドロウだけだよ。」 「いい、まだ言うなよ。若いんだから。縛られることはないさ。」 「あんたね、そうやっていつも自分ばっかり痛い目に合って、間に入るのが嫌なんだろうけど、実は振り回されるのが好きなんじゃないの?」  いつも嫌だ、痛いと言いながら走り回る自分を思い出したのか、ドロウは髭をいじりながら少し考える。 「あっちにこっちに振り回されても、投げられた玉は一つしか取れない。」  トムはそんなドロウの肩を抱いてやろうとする。手が肩に届かなくて、腰になってしまったけれど、痛む所には触れなかったようだった。 「大事な時に走るのはもう、僕だけだよ。」  痛がらなくてつまらないと、背を少し強く叩いてやるとドロウは顔をしかめたけれど。もう、痛い、痛いとは言わなかった。
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