グレンはなんでも知っている

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「見ての通り、王子は産まれながらの魔力持ち。しかし訓練を嫌がり魔力がこう…たまに出る。不十分だ。」  王子がそれを聞いて、今度はメラメラと強力な魔力を示して見せる。 「おやめください。危険です。」  ソウはそれに気付いて王子を制する。 「こんな王子なので、こっそり連れて行きます。僕は北の国へ先行する副将軍、王子はその甥、ハッチはお付きということになってます。」  トムとドロウは頷くしかない。 「本来、王子が仰々しく出向く一行には王子はいません。こんな未熟な魔力持ちの王子は人質にはもってこいですから、多分襲撃されるでしょう。」 「なら、行かなければいいんじゃない?」  トムが最もなことを言う。 「城に置いといてもなんもしないから、北の国の王子…王になるんでしたね。が変わり者の魔力持ちで元勇者とのことなので、お預けして来ようかと。」 「勝手だな…ホイルは喜びそうだが。」  ソウは長い手を伸ばし、トムの手を握る。 「昨日、来てくれたんだって?ごめん。」  穏やかな声で微笑まれると、トムはそれに見惚れてしまう。 「ソウはやっぱり、魔力は持たないだろう?」 「うん、でもね特殊な身体なんだ。」  二人の世界に入ってしまった所に入れず、ドロウはイライラとそこに入るすきを探す。 「僕は魔力が視える、そして吸い取ることができる。」  ドロウの荷物を奪うと、そこから黄色く光る玉を出して、一瞬で黒く戻してしまった。 「ドロウ、これは…。」  カクレと同じ身体だ。非常に珍しい。 「この袋だって、ある程度魔力がない人間が触ると怪我するはずだ。」 「魔力はないけど、触れる。」 「だから、トムとも交われるよ。こないだのは、お芝居。」 「トム、こんないかさま信じるなよ。」  ドロウがトムの方を見ると、腕を組んでソウを見ながら真剣な顔で考えている。 「ドロウと約束をしなくて良かった…。」  トムはドロウの腕を掴み、離れたテーブルまで連れて行き座らせた。 「カクレと同じ身体なら、溜まった魔力がどこかで溢れる可能性がある。」  そうだな、とドロウは納得して今までのトムとカクレの場合を思い出す。 「彼には、どこかで僕が必要になるかもしれない…。そうしたら、吸い上げてあげないとな、ガトラーがカクレに、ドロウが僕にしてくれたように…。」  待て待てと、ドロウがトムの手を握ろうとするのをソウが止める。 「さあ、参りますよ。強力な魔力持ちが二人も護衛ではなお安心です。」  ドロウが聞く。 「変な奴は始末していいのか?そんなふにゃふにゃした王子様、すぐに狙われるぞ。」  ソウはマントをガサガサと探り家紋の入った漆黒に艶めく薬入れを取り出す。金の紐が巻き付けられていて、王家の物とすぐにわかる豪華さだ。 「まずはこれを見せて、僕が副将軍だったと教えてあげて、それでもだめなら…やっちゃってください。」  それをトムに投げる。 「よろしく、トム。」  トムはそんな凛々しいソウにまた見惚れる。背が高く、手足も長い。肩幅が広いのは武勇者だったからか。なのにおっとりとした顔立ちはとても魅力的だと前も思っていたことをまた、思い返す。 「魔導士様はこの王子に魔力の制御の仕方を道々教えてあげて頂けますか?」 「やることもないから、いいけど…。」 「トムには手を出しませんよ。任務中ですから。北の国で後から来る副将軍に引き継いだら、自由です。」  ドロウは背中がまた痛み、それに応戦ができなかった。 「行こうか。」  トムがソウ、王子、ハッチの後ろにドロウと付いた時に耳たぶに触れた。 …ジリ…ジリ…  ドロウにしかわからない音で耳飾りが鳴る。 ー追いかけてくれるんだろう?  トムの手がドロウの腰とその下も撫で、思い切り背中を叩いた。 ー痛い。  その声はトムにだけしか聞こえなかった。 番外編 トムの旅 おわり
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