最強の二人

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 周囲の見物客が悲鳴を上げてどこへともなく逃げて行く中、勇者はその窓を見つめ続ける。 「ガトラー、行くぞ。付いて来い。」 「歩いて?」 「飛ぶんだよ。飛翔よ、フライト。」 「勇者様はそんなこともできるんですか?」 「できる。つかまれ。」  勇者は身体を覆うマントを右手で掴み、左手はガトラーの腰に添えた。そっちのマント、こうやって持ってと、自分の右手を見せる。こうすか?とガトラーは左手でマントを持って見せる。 「もう少し、僕に近付いて。君を隠したいから。」  そう言うと、ガトラーの腰をぐいと自分に更に近付けて抱き込むようにしてから、右の耳飾りを取って胸にしまい、地を蹴った。 「魔王の弟子の仕業だ!」  同時に勇者が叫ぶ。 「はあ?何お前言って。」  黙れと口が塞がれる。勇者の口で。 「だが、今、この都には勇者様が来てるって言うじゃないか。ならば勇者様が助けてくださる。」  逃げる見物客から声が上がる。 「あれを見ろ!勇者様が王女様を助けに向かったぞ。勇者様は飛べるんだ。」  夜空に舞い上がった勇者の姿を認めた群衆は、王女様を助けてください、勇者様頼みます、良かったと口々に叫ぶ。 「悪い、悪い。ちょっと付き合ってよ。」  勇者は花火見物にでも誘うようにガトラーを黒煙の中に引き連れて行く。 「嫌だ。俺は兵隊に串刺しにされたい願望はないんだ。ただ森で次の勇者を事前に始末する遊びをしていただけなのに。あんたに目を付けたのが間違いだった…」  勇者は、口だけは騒ぐのに落とされるまいと、しっかりと自分にしがみつくガトラーを更に強く抱いた。 「うるさい、黙ってくれる?」  ケラケラと笑いながら、またその口を塞ぐ。その口内も燃えるように熱かった。  こんなに魔力を使いながら、こいつの身体からは魔力を感じない。纏うマントからはこんなにも感じるのに。  これが勇者の魔力というものかと詮索を諦め、今度は自分から勇者を求めた。
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