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勇者はまたガトラーの手を取る。その手はまだひどく熱い。興奮した様子で、少し息が荒い。
「ガトラー、ありがとう。最強の魔法使いが仲間になってくれる。まだ言ってなかったね。僕はね、最強の仲間二人と共に魔王城に行かなくてはいけないんだ。」
「最強の二人?安易な…。」
「いいんだよ。わかりやすいだろ。僕が最も優れていると判断すれば、それが最強だ。僕は魔道士お墨付きの最強の勇者だからね。最強の魔法使いと、最強の剣士。魔法使いは彼女だ。」
「それが揃えば、あなたたちを魔王の所へ案内すればいいんですか?」
「そうだ。最強の剣士もすぐに見つかるだろう。魔王城に仲間として一緒に行かないか?そうしたら…。」
勇者が繋ぎたかった次の言葉があることにガトラーは気付かない。握られた手を振り払い、勇者のマントの背中を掴む。そのまま背を自分の正面に向けて、靴に仕込んだ小さなナイフを取り出し、突き立てた。継承する不完全な魔王の力を込めて。
ナイフが刺したのはマントだけ。気の抜けたトスという音だけが広い部屋に響いたように感じたが、それは手元でしただけだった。
王女の椅子に座った勇者が、いいな、そうでなくちゃと笑っている。
「呪いについて、後でゆっくりと教えてあげるよ。今夜は僕の部屋を王女様に貸してあげなくちゃいけないからさ。君の部屋に行くからね。」
勇者は臆せずにガトラーに近づいて来ると、マントから引き抜いてまた構えていたナイフを指で摘まんだ。
「ガトラー、君に全部、見て欲しいんだ。」
首元を開くと、そこには耳飾りと同じ、碧色の宝石が散りばめられた首飾りがはめられていた。ナイフが勇者の手元で黄色い炎に包まれて焼けた。
ガトラーはその首に顔を寄せて勇者を抱き締めた。
扉が開き、着替えた王女があら、あら、面白いと楽しそうに飛び跳ねていた。
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