魔法使いと剣士

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魔法使いと剣士

 城から連れ出して来た王女のエリ・ナドラスは空中から着地すると踊るように歩き出し、鼻歌まで歌っていた。祭りの終わりの花火は王女襲撃という悲惨な結果に終わり、街は厳戒態勢という国民にっては最悪の宴となったというのに。本人は自由を手に入れた喜びを身体全体で素直に表現していた。  兵士が一軒一軒、家の戸を叩き、家人を検めている。騎兵団は検問を行い、さっきからもう二度も引っ掛かり宿屋までの道は遠い。夜はすっかりふけていた。それでも王女は検問の前になるとまともに歩き、するりとそれを通過し、また踊るように歩くのだった。 「しかし、着替えが長かったな。」  もう、うんざりという顔で勇者は汗をかきながら歩いている。あんなに体温が高いと大変だな、これも魔力の強さなのかなとガトラーは受け入れ始めていた。 「ああ、最初の服はないだろう。そもそも、変身できるならまずはそれで良かったのに。」  結局、服が決まらず、男児に変身して見せた王女に、できるんじゃないの…と頭を抱えた二人だった。まず、とても短いスカートを履いてきて、目立つからとやめさせ、次に真っ赤なドレスを着てきて、目立つからと…これを数回、繰り返し。  検問で捕まれば、もう外には出られないと言うと、ならば男の子にでもなりましょうかと変身してみせた。 「まあなぁ。王女様だから、服とか気にするんじゃないの?」  勇者は王女に寛容だ。  王女は飛ぶこともできた。多分なんの道具もなくできたのだろうけど、見た目が大事よと黒い傘を出してきてフワフワと地上を目指して浮遊した。 「黒にしたのは、偉かったね。」  勇者はこの時も、王女に寛容だった。  ガトラーは急く気持ちを抑えるのに苦労していた。早く勇者の呪いを知りたいのか、その先へ行きたいのかもう自分でもわからなかったけれど。ずっと自分に熱い身体を寄せる勇者の肩を抱きたくて仕方ないと思っていた。 「ガトラー、魔王城へは連れて行ってくれるよね?」 「それはもちろん。魔王にあんたらを始末してもらわないと、次の勇者と遊べないからなぁ。俺ではあんたらは手に負えない。あの、王女様も。」  あと一人、入るからね。すげぇのが。勇者がまた、ガトラーのマントに付いた木の葉を見つけて、摘んで捨てた。
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