魔法使いと剣士

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 一つしかない寝台に荷物を投げるように置いた勇者は、重いマントの金具を外し、足元に落とす。   トサッという音がして、そちらを見ている間に、勇者は服を上から、下へと脱いでいき足元に一枚、一枚と落としていく。  窓の外に丁度、満月がやってきて部屋の中を照らした。ガトラーに背中を向けた勇者の影が視界を一度遮り、最後の一枚が床に落ちるのを見逃したのが心残りだったなと後に思ったのだった。  全ての服から解放された勇者はガトラーに振り向く。その耳には見慣れた耳飾り、首には先程初めて見た首飾り、右の手首には腕輪、右の足には足輪がはめられている。  どれも同じような見た目をしている。耳飾りと同じ碧色の宝石が散りばめられた鈍い金色のそれは長らく身に着けているのだろうか。 「呪いの勇者は、産まれた時から魔力が強すぎる。この世の驚異になる勇者、ということだ。呪いの勇者は成人した時からこの四つの封具を身に着けて旅に出た。」 「魔王を倒すために?」  ガトラーは月が作り出す勇者の影を避けて、月明りがその姿をよく照らして見せてくれる場所を探した。そこは寝台だと気付き、腰を下ろした。頬杖をついて、勇者の裸体を眺める。 「魔王無き世を作るために。」  勇者は足元に散らばるマントと服を踏みつけながら、一定の歩幅で寝台に近付きガトラーの横に座る。栗色の少し耳にかかる髪を左耳にかき上げ、こちらも頬杖をつき、ガトラーを見つめる。 「呪いの勇者は幸いの使者を呼ぶ。それを探している。」  幸いの使者?ガトラーは急に出てきた新しい名前が気に入らない。 「呪いの勇者は幸いの使者と出会い、魔王無き世を作る。そこで命が残るかどうかは、わからないけれど。」  ガトラーを見た勇者の目はまた月を背にして陰り、月の瞳を見ることは叶わなかった。  ガトラーはそれが見たいと強く願っていたのに。  
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