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呪いの勇者
明かりの灯されたランプの下、長時間のお産で疲れ果てた母親がぐったりとして、肩で息をしている。
チャプリ…チャプリ…
温かい湯で身体を清められていく赤子の右手には、赤い痣があった。それははっきりとしていて、誰の目から見ても勇者の印であることは明らかだった。
魔力の有無ではっきりとさせるまでには、一月の間を置き、魔導士に「視て」もらう必要があるのだが。
年老いた産婆が産湯に浸かってツルリときれいになった赤子を清潔な布に包みながら呟く。
「さあさあ…よく産まれて来ました…。これからのことは、なにも…心配はいりませんよ…。このばばが今からお父上の所に行ってよーく…お話ししてあげますからね…。」
赤子はそれを怖いと思ったのか、赤子とはそういうものなのかおぎゃあ、おぎゃあと泣き出した。
「よしよし…なにも恐れることはありませんよ。幸いの使者が…参ります。なにも…ね。」
そう言って赤子をあやしながら、抱きかかえる。手伝いに連れて来ていた若い娘に、母親を頼みますよと言い置く。娘は老婆によく躾られているらしく、余計な事はひとつも言わず、はい、と返事をして母親の身体を清める手を止めない。
老婆は布に包まれた赤子を抱いて父親の所へ向かった。小さくて片手で抱いても腕にすっぽりと収まりそうな程だった。
勇者様の誕生でございます。伝えられた父親は脱力し、膝から床に崩れ落ちて泣いた。
「なにも…恐れることはありません。幸いの使者が…参ります。」
老婆は赤子に言ったのと同じように父親に言って、落ち着いて聞いてくださいねと歌うように語り始めた。それは魔法だったろうか。
赤子は眠り、父親は泣くのを止めてその声に聞き入った。
勇者は呪われ、幸いの使者が訪れる。
そんな話、聞いたことがない。勇者が世界を救わずに、使者が勇者を救うというのか。ならば勇者などいらないだろう。
赤子の痣を見ながら父親は祈った。どうかこの子に幸いが訪れますように。
それが叶わないのならば、早くこの世から消してしまわなくてはいけない。
一月の間に。
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