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トムは耳飾りを外して、腕輪を見た。三月前にはめたばかりのそれはもう古びた骨董品のように金色が煤けている。
あと少しほうっておいたら、古代遺跡のようになってしまうのではないだろうか。笑う場合ではないのに、可笑しくて口元が上がる。
頭上に浮かぶ満月などには目もくれない。自分はもう持っているよと余裕があるのか、そんな救いの手も差し伸べてくれない石の塊など、目に入れたくないのか。
耳飾りを握った手の下で鈍く光る腕輪に唇で触れると、早く、会いたいと口には出さずに言って。今度は恍惚と笑った。
勇者の腰の下で、その中に自分が入るのを見届けたガトラーは目線を上に移す。
その横に放り出されたような手を見ると、左右をまとめて掴み、頭上に繋ぎ留めた。
「大丈夫、なんにもしないよ。」
無防備な姿の勇者がさっきよりも涼しげな表情で腕を動かし、ささやかな抵抗をする。
「さっきはこっから、後ろをやられたからな。」
ガトラーは手を解かない。腰を動かし、空いた手で勇者のを転がしている。
「器用なこと…折角なら、ガトラー、あんたを抱きしめたい。その方が気持ちいいだろ?」
「そう言って、最後に殺されたらたまらないよ。」
口では胸の尖りまで舐めて、本当に器用だよあんたと勇者は呆れている。
「僕は嘘はつかない。約束する。だから、きちんと抱き合おう。」
頭上で聞こえた真摯な声にガトラーは手を離す。自由になった手で勇者はガトラーの頬を挟み、深く、浅く、口付けを繰り返した。
「こんなの、いらないだろ?」
愛し合うような動作はいらないはずだ。これは交換した約束なのだから。
「いいじゃない?この方が、ずっといいよ。」
ガトラーは口付けを受けながら、さっきよりも激しく、しかし、勇者の顔が苦痛で歪まないように気を付けながら腰と手の動きを強めた。
勇者はガトラーの頬から手を離し、その背中に腕を回した。
さっきまで熱かった身体はもうそうは感じない。ガトラーの身体が熱くなったからだろうか、焼けるように熱いのは自分の方だと思いながら、喘ぐ勇者に唇を重ねた。
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