呪いの勇者

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 ガトラーは足に魔力を集めて走り、まずはこの都から出ることを目指した。祭りの行われている中心部を出て、下町の住民街、門前の橋を渡れば、後は広大な森に出るはずだ。  まずは魔王の元に帰り、新しい勇者がこちらに向かっていることを教えなくてはいけない。勇者は倒しても、倒しても、ひっきりなしにやって来る。 「候補がたくさんいてなぁ。これがだめなら、次、こっちがあれなら、次って送り出されて来るんだ。悪を倒すためなら、神様も小さな犠牲は目を瞑ってなりふりかまわず。嫌だねぇ。」  足元に纏まり付き、膝に登ろうとする幼いガトラーを抱き上げて魔王は言った。 「勇者が来たら、どうなるの?魔王、倒されちゃう?」  ガトラーは心配で聞いた。物心ついた頃から魔王はガトラーの唯一の保護者で師匠だったから、彼を失うことは考えただけで恐ろしい。  そうだなぁ…と魔王はしばらく考える、優しくガトラーを見ながら黒い髪を摘み、また膝に抱え直して黙っていた。  幼いガトラーが自分の質問も忘れて魔王のマントに潜り込もうとした頃に彼は口を開いた。 「魔王はいなくならないから、大丈夫だよ。」  魔王は長く続く魔王の系譜と「悪の城」と呼ばれる鳥がさえずり、緑豊かな居城がなぜここにあるのか教えてくれた。  幼い身にはわからないことだらけだったけれど、また一つの質問が産まれてそれをし忘れてしまった。それからも忘れ続けて、もう、ずっと、ずっと。 「魔王っていらないんじゃないかな?」と。  今度の勇者は確実に彼を倒しに来るだろうという予感があった。  それを早く、早く教えなければ。こんなことをしている場合ではなかったんだ。今までが平和過ぎて忘れていた。つい、遊びに夢中になってしまった。
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