呪いの勇者

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「捕まえた。逃げても無駄だよ。大事な拾い物なんだから。」  都から出てからもしばらく走り、ここまで来ればと足を緩めたところでガトラーは後ろからマントを掴まれた。 「う、う、嘘…?!」  振り向くと茶色の瞳が驚いたように見開かれ。その眼球の下には黄色く一筋の線が引かれているようなのだった。なるほど、これが茶色と黄色の瞳の正体か。黄色の一筋が全体に色を重ねているように淡く、広がりを見せている。  まるで下弦の月のようだ。けれどもそれは、近くでよく見なければわからない。ほら、もう隠れてしまった。残念だなとガトラーは思いながら。 「戻る、戻るよ。離してくれ。」  観念して、手をダラリと下げる。 「このまま、首根っこ掴まえて、引きずって行って欲しい?それとも大人しく後ろを付いて来る?」  勇者は笑うでもなく、怒るでもなく静かに言い放つ。さっき祭りで笑っていたのとは別人のような冷酷さにガトラーは背筋が凍るような恐ろしさを覚えた。 「後ろを付いて行きます…。」  逃亡に失敗したガトラーは勇者の後ろを歩きながらまた、開き直ったように無駄口を叩き始める。 「勇者さんは、足も速いんですね。全速力で走ったんだけどなぁ。まるであちらから、こちらに移動してきたように速い。それも魔力、ですか?俺は魔力を持っていないのでわかりませんが。」  ガトラーが言い終わるのと、勇者がガトラーの襟首を掴み、地面に叩きつけるのとはほぼ同時だった。 「痛いです…。頬に木の枝刺さってるから、絶対。痛い。」 「魔力がないなんて嘘つくからだ。さっき使っただろう?」 「使ってないです。使ってない。本当に。」  ふうん、と勇者はガトラーのマントから手を離さず、顔を耳元に近づけた。  
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