呪いの勇者

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 ガトラーの耳の後ろに、勇者の鼻先が当たる。スンスンと匂いを嗅ぐ鼻の動く音がして、マントから離れた手の代わりに勇者の膝がガトラーの背中を強く地面に押し付けてくる。 「痛い、痛いから。今度はへそに枝が刺さってる、絶対。」  ガトラーは懇願するように痛い痛いと騒ぐ。  そんなことはお構いなしに、勇者は自由になった手も使い、両手でガトラーの首、肩、胸、腹と手を滑らせていく。 「なに、なに…なにやってるの?」  手がガトラーの身体をまさぐる間もトムの鼻はガトラーの耳を鼻先で探り続ける。 「嘘では、ないようだね。」  鼻を近づけられていた耳元に勇者が口を開いたことで息が当たり、ガトラーはびくりと身体を震わせる。 「魔力はない。確かに、君からはなんの魔力も感じられないな。封具も身に着けていないんだ?じゃあ、なにあれ?」  そう言う間も勇者はガトラーの目を開いて中を見たり、手をひっくり返して表、裏、靴まで脱がせて足の先まで隈なく観察していく。  変な奴だな、と言って今度は身体を仰向けにする。 「すみません…頭に枝が刺さって痛いから、もう本当に許してください…。」  ガトラーはまた懇願するけれど 、もう聞いてもらえないのはわかっている。マントは小さな枝や葉が付いて、ふるい落とすのが厄介だろう。とマントの心配をしていると、今度は腹に膝が押し付けられる。 「もう…逃げないですよ。苦しい、やめて。」 「いや、こうするとさ、飲んでる封具が反応して、魔力を感じることがあるから。」  勇者はガトラーの口を指でこじ開けて、そこに鼻を持っていく。  唇が少し、ガトラーのに当たる。 「あはっへゆ、あは、くひあはっへ…。」  わかんないな、なんなの?と苛立つ勇者はその口へ自分のを押し当て、中を一度舐める。二度、三度舐めてから、やっぱりないかと口を離して呟き、指を外す。 「さっきの、なに?教えて。あんた魔力以外のなに持ってるの?」  その前になんか襲われた気分なのを謝ってほしいと魔王の弟子からぬことを思ったガトラーは、違う違う、もっと魔王の弟子らしくしなくてはと勇者の腕を取り今度は上から下に位置を変える。 「教えてあげますよ。その前に、こんなになっちゃったから、なんとかしてくれますか?」  ガトラーは腰の塊を勇者の腹の下に押し当てる。  顔を赤くした勇者の瞳にまた、黄色の月が見えた。そうか、上から見下ろすと見えるのかと考えているうちに後頭部に強い魔力の衝撃が走り意識が薄らいでいく。 「あんた、学習しないな。こなだも指一本でやられたじゃないの。」  勇者の楽しそうな声が耳元で聞こえた。また木の枝が刺さるなと思ったけれど、最後の記憶はやわらかかったような覚えがある。
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