溢れる器

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 カクレの舌が、ガトラーの唇に少し触れた気がした。  ガトラーはそれを追いかけて、舌を口に差し込む。それに応じるように、また舌が動き、触れる。  男がガトラーの肩を叩いた 「待って、今、舌が…。」 「後はゆっくりやれば大丈夫だ。カクレは戻ってきた。」  男はカクレの手から今までの中で一番光り輝く玉を持ち、また取り替えていた。こちらを見ないようにしているのを見て、急にガトラーは恥ずかしくなって、口元を右手で隠した。 「なんか…すみません。」  いや、いいんだ、わかるよ。と男は今まで回収した玉をそれを持ってきた袋に入れていた。マントからはカラカラとまだある玉を転がし出すと、玉座の後ろに下がる帳の後ろを覗き込んだ。 「良かった、あるな。ガトラー、これも使え。」  そこからもカラカラと玉を出して来ると、男はカクレがちゃんと息をしているか確かめて欲しいとガトラーに頼んだ。 「大丈夫です。してます。全身の熱も引いたみたいです。」  男はまた、良かったと言うとへたり込むように玉座に座り込んだ。 「ゆっくりでいいから、カクレが目を覚ますまで、続けて。」  男はそう言うと、悪い悪いと灰色の髭を撫でながら、玉座を苦労して反対に回してまた座った。そこから砂時計が落ちたのに気付き、それを大事そうに握りしめる。  カクレが目を覚ましたら、俺は行くからと両手で顔を覆って。後でカクレに話して欲しいと、ガトラーに語り始めた。  まだ、続けてと言うことは、玉は自分が取り替えて、この口付けを今度はゆっくり味わっていいということだ。  カクレが絨毯を敷いただけの床に寝かされているのを見て、ガトラーは自分のマントを頭の下に敷いてやった。  この広間は横にも、天井にも、大きな窓がたくさんあって、夜になると月がどこにいても見える。「お月様の間」だと、幼いガトラーは喜び、よくここで寝転んでいた。  魔王は、ならここで寝ろと笑って、寝具を床に敷いてくれた。  そういえば、魔王は、グレンはどこに行ったのだろう?  横の窓にはもう月が見えていた。
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